おはよう、週末の空と、音づくりの話。今日も、よく晴れている。風もやさしくて、夏らしい空だ。
さて、最近の僕はというと、もっぱら音源制作に励んでいる。ライブ出演に向けて、音源制作を進めている真っ最中だ。
◾️ライブ用オケ制作というプロフェッショナルな作業
今回取り組んでいるのは、自作の楽曲をステージで歌うための「自作カラオケ音源」の制作だ。つまり自分のソロ弾き語りに、あらかじめ用意した音源を重ねてパフォーマンスするというスタイル。
ただし、これは普通のボーカル入りの音源制作のミキシングやマスタリングとはまったく違う作業になる。
リリース音源であれば、ボーカルと伴奏は一体となって完成された作品として作る。でも、今回作るのは「自分がライブでマイクで歌う」前提の音源。つまり、リアルタイムの生ボーカルと共存することを前提とした音作りが求められる。
この違いは大きい。PA(音響スタッフ)さんにとっても、そして観客にとっても、「聴きやすさ」が全然変わってくる。
◾️過去の苦い失敗から学んだこと
実は、僕は過去に大きな失敗をした。自作のオケを作り、リハーサルでもそこそこ良く聴こえたはずが、本番では完全に自分の声がオケ埋もれてしまった。
・オケの音圧をラウドにしすぎた
・イコライザー処理をせず、ボーカル帯域とぶつかってしまった
・中域に穴を開けなかったことで、歌詞の子音が聞き取れなかった
これはもう、トラウマになったほどの体験だった。会場のPAさんも困ってしまっていたし、何より、お客さんに歌詞が伝わらなかったことが一番悔しかった。
それ以降、僕はしばらく落ち込んでいた。
最初は原因が分からず、「自分には歌唱力がないんだ」と思い込み、そこから半年以上、ボーカルトレーニングに必死で取り組んだ。でも、それだけではどうにもならない“壁”があるように感じていた。
あるとき、ふとしたきっかけで気づいた。原因は歌唱力だけじゃない。もっと根本的な、技術的な盲点があったのだと。そこからは、オケ制作という「土台」のほうに意識が向き始めた。
そして僕は、一般の人が使うDAMやJOYSOUNDのカラオケ音源をじっくり聴いてみた。
すると、ある共通点に気づいた。それは、「中域にぽっかり穴が空けてある」ということ。
しかも、単にEQでカットしているだけじゃない。ボーカルの存在を邪魔しそうな帯域や要素が、丁寧に“引き算”されている。それによって、声が自然に浮かび上がるように設計されていた。
これは、歌う人の声がしっかり抜けるように設計されているから。
そのかわり、低域の重厚さや高域の空気感・残響が丁寧に調整されていて、「厚み」や「空間」がしっかり支えられている。
ただ、一般に共有されるカラオケ音源は、あくまで万人向け。誰にでもそこそこ合うように幅広に深めに“引き算”されているぶん、クオリティ面ではどこか妥協があるのも事実だ。
でも、自作のオケであれば話は別。
自分の声質に特化した帯域設計ができる。固定的にも、動的にも。
そこを丁寧に仕上げることができれば──音源としての品質を最大限に保ちながら、オケの存在感もしっかり際立たせることができる。
カラオケ音源制作は、リリース音源制作とは別物。そこを理解していないと、大失敗する──身をもって学んだことだ。
◾️OzoneやNeutronなど、AI補助のミキシングツールたち
現在の僕は、MacBook ProとLogic Pro をメインに、音源制作をしている。
最近特によく使うのが、iZotope社の「Ozone 11」と「Neutron 4」。Ozoneは主にマスタリング用、Neutronはミキシング用のツールで、AIアシスト機能も優秀だ。
例えばNeutronでは、「Vocal Assistant」という機能で、ボーカル音源を解析し、EQ・コンプレッサー・Exciter・Saturatorなどの設定を自動で提案してくれる。
ただし、ここで大切なのはAI任せにしないこと。AIが導き出す値はあくまで“たたき台”であり、自分の耳と感覚を使って微調整していくことが、プロとしての作業だと思っている。
◾️EQの「引き算」的処理と帯域の住み分け
オケ音源を作るうえで最も重要なのが、EQの引き算的処理だ。
ボーカルの入る周波数帯(超ざっくり言えば1kHz〜4kHzあたり)を中心に、オケの中域を少しだけ「えぐる」ようにカットする。
ただ、固定的に完全に削るのではなく、Dynamic EQを使って「声が出たときだけ」軽く沈ませるという手法もある。これは、常にへこませておくと不自然になるため、一時的に凹ませることで自然な空間を保ちつつ、ボーカルがしっかり抜ける構造にできる。
◾️NeutronでのサイドチェーンEQによるボーカルとのリアルタイム・マスキング回避
Neutronが本当に真価を発揮するのは、サイドチェーンを活用したマスキング回避の場面だと思っている。
今回のように、ライブ用のオケを作る際は、「あらかじめ録音された自分のボーカルトラック」を用意できる。
そのボーカルトラックをNeutronのサイドチェーン入力に設定することで、オケ側の各トラック(ギター、ピアノ、パッド、ストリングスなど)を“ボーカルの帯域”から動的に引く処理が可能になる。
これは単なるEQのカットではなく、リアルタイムに“譲る”処理。
ボーカルが鳴っていないところではオケが自然に鳴り、ボーカルが鳴った瞬間だけ“スッ”と音を引いてくれる。
オゾンでの全体処理とは違い、より細やかでパートごとに柔軟なマスキングコントロールができるのが特徴。
実践ステップ(Logic Pro Xでの例):
- Neutronをインサート
→ たとえばギターやピアノなど“ボーカルと帯域が被りやすい”トラックにNeutronを挿す。 - サイドチェーン設定
→ Neutronのサイドチェーン入力に、自分の録音済みボーカルを指定。Logicのチャンネルストリップ上部の“Side Chain”から選択。 - マスキングモジュールを起動
→ Neutron内で「Masking」を開き、ボーカルとの帯域の被りを視覚的に確認。 - Dynamic EQで“譲る”設定
→ 被っている帯域(1kHz〜4kHz前後)にEQノードを立て、サイドチェーンに反応して自動でゲインが沈むように設定。 - 自動化ではなく“反応”を活用
→ NeutronのDynamic EQが演奏に追従して動的に反応してくれる。タイミングのズレが少なく自然。 - 複数トラックへの応用
→ ピアノ、シンセ、ストリングス、ギターなど「中域が厚くてボーカルとぶつかりやすい」パートに同様の処理を行う。
これにより、オケ全体が「歌に対して気を遣ってくれる」ような構造になる。まるで人力のバンドメンバーたちが、「今は歌が大事だから、ちょっと引いて演奏しよう」と言ってくれているような感覚。しかもこの手法なら、ボーカルが鳴っていない部分ではオケが元通りに存在感を発揮してくれる。“常に削る”のではなく、“必要なときだけ譲る”という、まさにプロ仕様のやり方。
Ozoneでのマスタリング前にこのNeutron処理を済ませておくことで、音源全体がすでにボーカルのために整えられており、最終段で無理なEQをしなくて済む。
このサイドチェーンEQマスキング回避は、一発で音の透明感が変わるので、正直一度体感してしまうと戻れなくなる。そして、これこそが“ライブで自分の声をちゃんと届ける”ための、現代的で高度な音源設計の核心部分だと思っている。もう、25年前からDTMをやってきた僕からすると、もはやこの技術は魔法に近い。
◾️Ozoneでのマスタリング設定(実例のイメージ)
Ozoneでは、以下のようなモジュールを使いながら、音圧・音域のバランスを調整している:
・EQ:中域を控えめに、低域と高域は空気感を強調。目立ちすぎないよう微調整
・Dynamic EQ:ボーカルの帯域を声が出るタイミングだけ沈ませるよう設定
・Imager:低域はモノラル寄り、高域にステレオ感を持たせて広がりを演出
・Exciter:高域に軽く掛けて、鮮やかさを足す
・Maximizer:ラウドネスの最終調整。ただし、パツパツにしない。配信用マスタリングと違い、音圧に余裕を残すことが肝心。とくにMaximizerでは、設定数値を上げすぎるとPA側での調整幅が失われる
ライブ現場では、ラウドネスは「ちょっと物足りないかな」くらいがちょうど良い。あとはPAさんが最適化してくれる。小さい分は大きくできるけど、大きすぎるのは小さくできないんだ。
◾️ボーカルとのバランス設計
実際の作業では、仮歌やガイドボーカルを薄く混ぜてミックスチェックする。
そして、完成オケからガイドボーカルを抜いた上で、再度バランスを聴き直す。
このとき、自分の声の周波数をスペアナで確認し、オケ側を調整するのがコツだ。
周波数帯を「削る」よりも、「隙間をあける」という意識でやると、自然なミックスに近づく。
◾️音作りも愛情の一部
音源制作って、一見すごく専門的で、遠い世界の話に思えるかもしれない。
でも、僕にとっては、これもまた「大切な人に音楽を届けるための手段」。
だから、今日もMacの前に座って、黙々とEQをいじり、メーターとにらめっこして、再生と停止を繰り返す。
その時間すら、僕にとっては愛情なんだと思ってる。
今日も一日、そんなふうに過ごしていきたい。家族のことを、遠くの空の向こうで見てくれてるミューちゃんのことを、いつも思いながら。心は、隣だ。そして、どんな日も「心」でつながっていけると信じてる。
ありがとう。愛してる。バイバイ。
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