日々のことば(ブログ)

✍️映画『8番出口』鑑賞レビュー──親子で感じた異変の世界と0番出口の意味(ネタバレ注意)

おはよう。今日は少し雲が多い朝だね。昨日は、話題の映画『8番出口』を観てきた。
ゲーム版(iOS)を子どもと一緒に遊んでいた流れで、「映画も観たい!」という子どものひと言に背中を押された。
あの無限に続く通路の“異変探し”を、まさかスクリーンで体験できる日が来るとは思わなかった。

この記事は“ネタバレ注意”だ。ストーリーの解釈も交えながら、映画を観た体験を自分なりに振り返っているので、まだ観ていない人は、できれば鑑賞後に読んでほしい。

東京メトロとのコラボ企画でも話題になっているように、映画の舞台はリアルな地下鉄空間。
僕自身、かつて東京で地下鉄通勤をしていた時期があって、あの空気感や雑音、発車メロディが懐かしかった。
日常の延長に“異変”があるというこの映画のテーマが、あの頃の記憶と重なって胸にしみた。


<ご案内 Guide>
異変を見逃さないこと
Don’t overlook any anomalies.
異変を見つけたら、すぐに引き返すこと
If you find anomalies, turn around immediately.
異変が見つからなかったら、引き返さないこと
If you don’t find anomalies, do not turn back.
8番出口から外に出ること
To go out from Exit 8.

この作品は、KOTAKE CREATEによる同名ゲームを原作に、川村元気監督が映画と小説という“二つの出口”で描いた物語だ。

この4行だけで、すでに“作品そのもの”が語り始めている。
日常のようで日常ではない空間、進むべきか戻るべきかを問う不安、そして「出口とは何か?」という永遠のテーマ。

僕もこのルールを胸に、子どもと一緒に劇場へ向かった。
そして、あの通路を歩くような90分間を体験することになった。

──ここから先は、僕自身の“出口体験”の記録だ。

◾️僕の解釈──出口とループの寓意

この映画の中で、僕がとくに印象に残ったのは「歩く男」と呼ばれる存在だった。

彼は地下通路をひたすら歩き続ける謎の人物で、ゲームでは前から何度もすれ違う“ループするおじさん”として登場していた。

映画では、その“歩く男”にもドラマが与えられている。彼もまた、かつて主人公と同じように地下に迷い込んだひとりの普通の人間だった。

やがて彼は、地下で出会った子どもと共に“8番出口”を目指して歩き続けることになる。

そして、その物語の途中――まだ“8番出口”に到達していない0番目の段階で、突然出口が現れる。おじさん(=歩く男/ザ・ウォーキングマン)は「出口があるなら行こう」と、子どもの“行っちゃダメ”という手を振り払って、その階段を駆け上がっていく。

けれど彼は、実はまだ“8番出口”にはなっていない。にもかかわらず“出口”を信じて上がった先は、実は“0番出口”的な世界。そこは異変の入り口であり、ループの始まり。たとえ外に出たように見えても、実は永遠に地下を周回し続ける運命。

この構図こそが、今回一番印象的だった。映画自体にも“0番出口”“ループ”“出口の錯覚”というテーマが何重にも仕掛けられていて、観客の頭の中でもこうした解釈が自然と生まれるように設計されているように感じた。

◾️名もなき主人公が象徴するもの

主演の二宮和也が演じるのは、“迷う男”とだけ呼ばれる名もなき主人公。
この設定がとても巧みだと思った。彼には具体的な名前も職業も背景も与えられていない。

だからこそ観客は自分自身を投影できる。

「出口が見えない」「正しい道がわからない」「戻るべきか、進むべきか」――誰もが日常の中で感じる“選択の迷路”が、この主人公を通して静かに映し出されている。

まさに、この映画は、観客自身の“人生の出口”を探す物語でもある。

また、主人公(二宮さん=“迷う男”)と“ある女”は、別れ話をしたばかりの交際関係。妊娠が発覚し、「産む/産まない」「結婚/別れる」いや『父親になる/ならない』間で揺れる。出口を探し続ける姿は、人生の葛藤そのもの。出口のない地下を歩き続けることは、答えのない問いを抱え続ける営みと重なる。

クライマックスでは、主人公がついに出口=決断を下す。電車内で、子どもを抱いた母親が他の乗客に怒鳴られる場面。勇気を出せず何もできなかった自分の記憶と重なりながら、出口を出たあと、再び同じ電車に乗る。描写は控えめだが、体のわずかな動きから“行動した”ことが伝わる。

つまり、“8番出口”とは人生の決意のメタファー。地下の中で、未来の時間軸にいると思われる少年が「父には会ったことがない」と語る描写や、海辺で家族三人が遊ぶシーンが挿まれる。そこで印象的なのが、少年から受け取った“貝殻のお守り”の存在だ。

主人公は、出口へ向かう最後の瞬間、その貝殻を見つめる。そこには、過去と未来が重なり、何かを決意するような静かな表情が映る。おそらくそれは“父親になる覚悟”であり、“人生を歩き出す決意”でもあったのだろう。

現実なのか夢なのかは語られない。けれど、出口を出たとき、彼は確かに“自分の人生の答え”を見つけていた。僕はそう受け取った。

◾️映画『8番出口』とは何を映画にしたのか

原作は、KOTAKE CREATEが手がけた同名のインディーゲーム。
“無限に続く地下通路を進みながら、異変を見逃さずに引き返す”という極めてミニマルな構造で、静寂と緊張だけで恐怖を作り出した傑作だ。

映画版では、その体験を壊すことなく、ドラマとしての人間の物語へと丁寧に昇華していたように思う。監督は川村元気、脚本は平瀬謙太朗との共同。主演は二宮和也。共演に河内大和(歩く男)、小松菜奈(ある女)、浅沼成、花瀬琴音。音楽は中田ヤスタカと網守将平が手がけている。

そして公式サイトでは、「彼の役には名前がありません」と明記されている。主人公を“名もなき存在”として描くことで、観客自身を投影しやすくした意図が感じられた。ほかの登場人物の役名も“ある女”“歩く男”といった一般名詞で統一されており、匿名性を保ったまま“体験”としての世界観を映像に落とし込んでいるように見えた。

上映時間は95分、配給は東宝。ジャンルとしてはスリラーだが、過度な残酷描写はなく、心理的な緊張と発見の物語として、子どもと一緒でも十分に楽しめた。

ゲーム版で登場した“違和感(異変)”が映画でどのように再現されるのかは、ゲームを知る人にとって大きな見どころだろう。どの異変が選ばれ、どう描かれているのか――それはぜひ、実際のスクリーンで確かめてほしい。あの静かな恐怖が、劇場ではまるで自分の後ろから忍び寄ってくるように感じられた。

◾️音と怖さの体感──静けさの中にある“かわいい恐怖”

中田ヤスタカ、網守将平による音楽が、この映画全体の緊張を支えていた。電子的な緊張感と構造の骨格と、空間の静寂と情緒の呼吸をそれぞれが担い、二人の感性が見えないところで呼吸するように交差していた。
地下の静寂、響く足音、突然鳴る機械音。その一つひとつが、まるで自分の心臓の鼓動を映しているようだった。音のダイナミクスが絶妙で、静けさの後にほんの少しのノイズが差し込まれるだけで、体がピクリと反応する。音を“足す”よりも“引く勇気”――その演出がこの映画の真髄だと思う。

不気味なシーンは確かに多い。けれど、それは決してスプラッター的な恐怖ではなく、静けさの中に潜む違和感の恐怖。
僕と子どもは「今の異変、わかった?」と小声で確認し合いながら観ていた。暗闇の中で、二人で“気づく”瞬間を共有する感じがたまらなく楽しかった。
怖さよりも、“気づきの快感”が勝る。だからこそ、親子で観ても後味がやさしい。まるでホラーと知育が絶妙に混ざったような、不思議な“かわいい怖さ”の映画だった。

◾️小さな裏話・トリビア

川村元気監督は取材の中で、ゲーム実況やプレイヤーの反応を何度も観察しながら、“異変に気づく瞬間”をどう映像に落とし込むかを考えていたとされている。まさに、プレイヤーの体験そのものを映画へと昇華させようとした試みだったようだ。通路セットの完成度も高く、撮影現場ではあまりのリアリティにスタッフが方向感覚を失いかけたというエピソードも紹介されている。川村監督自身も「通路で迷った」と笑いながら語ったそうだ。さらに、主演の二宮和也は脚本協力としても公式にクレジットされており、歩き方や視線、テンポといった演技の細部にまで意識を向けていたと報じられている。映画全体に漂う“歩くリズム”の心地よさは、そうした綿密な共同作業の成果なのかもしれない。

◾️映画と小説、そして“もうひとつの8番出口”

原作となったゲーム『8番出口』は、KOTAKE CREATE氏によって2023年に制作された。
全世界で180万ダウンロードを突破し、異変を探して進むという極めてシンプルな構造で、SNSや実況文化を通じて一大ムーブメントとなった。

この世界的ヒット作をもとに、川村元気監督は「プレイヤーの体験をどう映画に変換できるか」という挑戦を始めたという。
彼は取材で、「ゲーム実況を何度も見て、プレイヤーがどんな瞬間に異変を感じるかを研究した」と語っている。
まさに“体験の映画化”だった。

その上で川村監督は、脚本家・小説家としてのすべての経験を注ぎ込み、
映画と小説という“二つの出口”を同時期に開いた。

映画の脚本と並行して執筆された小説『8番出口』は、
主人公たちの心の声や、映画では語られなかった“異変”を描いた“もうひとつのループ”だ。
映画で見えなかった出口が、小説の中でふいに現れる。
二つの作品を行き来することで、観る者・読む者それぞれの“現実の8番出口”が少しずつ形を変えていく。

そして今年、映画『8番出口』はカンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション「ミッドナイト・スクリーニング部門」に選出され、
“ゲームから物語を創出した快挙”として世界的に注目を集めた。
川村監督自身も「日本のゲーム文化と映画、小説のすべてを融合させた」と語っている。

◾️それぞれの8番出口

この映画は、“観る”作品というより、“まるで自分の人生に当てはめるような”体験だった。
観客自身が人生の中の異変を見つけ、立ち止まり、また一歩、出口を探して進んでいく。
そのプロセスの中で、きっと僕らは自分の中の“出口”を探しているのかもしれない。
僕もあなたも、まだ“生活の中の8番出口を探す途中”。
そんな風に感じた。

今日も、生活の中でエンターテイメントを遊びながら、豊かに歩いていきたい。
昨日の雨で延びた運動会。校庭から子どもたちの歓声が響く。誰かが笑い、誰かが前へ進んでいる。
僕も同じ空の下で、小さな“出口”を探しながら静かに応援している。

離れている家族も、近くにいる家族も、それぞれの場所で生きて、笑って、愛している。
この記事を読んでくれたあなたも、きっと自分の“8番出口”を探しているのだろう。

同じ空の下で、またね。ありがとう。


🔗おすすめ関連アイテム

映画を観たあと、世界観をもっと味わいたくなった人へ。
どれも“異変の余韻”を静かに思い出させてくれるアイテムたちです。

🎬 映画パンフレット『8番出口』
当日映画館では、買うまで中は見られなかった。観たあとに迷わず購入。
デザインや紙質も含めて、おしゃれでセンスのある仕上がり。持っているだけで嬉しい一冊。

🗞️ 東宝 映画『8番出口』チラシ(B5サイズ)
劇場配布とはまた違う、保存用にちょうどいいサイズ感。
映画の空気をそのまま部屋に飾れる小さなアートピース。

📖 小説『8番出口』(川村元気)
映画と同時期に執筆されたもうひとつの“出口”。
心の声や、映像では描かれなかった異変の意味が静かに語られていく。

🎧 Audible版『8番出口』(完全版)
通勤中に聴いても没入感がすごい。
音と間だけで構築される“もうひとつの通路”を歩いているような感覚になる。

🌀 コミック版『8番出口』
絵で見ると、あの地下の異変がまた違う質感で迫ってくる。
一度映画を観た人こそ、ぜひ開いてみてほしい。

🎮 『8番出口・8番のりば』Switch版ゲームソフト
原点となる体験。あの「引き返すか進むか」の判断が自分の指先で問われる。

🕹️ 『8番出口・8番のりば』PS4版ゲームソフト
より大画面で、音の異変と没入感を味わいたい人におすすめ。

映画も小説もゲームも、すべては“出口を探す体験”でつながっている。
形は違っても、通路の向こうにあるのはきっと同じ──
それぞれの「8番出口」なんだと思う。


松永 修 – MUSICおさむ

松永 修/音楽名義:MUSICおさむ(シンガーソングライター)/音楽と文章の作家/国家公務員/キャリアコンサルタント

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