おはよう。今日も秋の澄んだ空が気持ちがいい。今日は、「ライブでオケを流しながら同期して弾き語りをする実践ノウハウ」について、少し“現場の空気が伝わるように”話してみたい。
これは心構えや感想ではなく、現場で本当に音を出す人のためのリアルな手引きだ。例えば、リハなし、PAチームが不慣れ、アナログ卓、時間制限あり──そんな現場で確実に音を鳴らすための完全版。
もちろん、いろんなパターンを書けばキリがないが、あるパターンをモデルケースにイメージが湧くように構成してみた。それぞれの段落ごとに本当は一つの本が書けそうなぐらいの内容だが、ここではエッセンスを凝縮して伝えていく。
◾️PAが不慣れな現場で起こること
PA(音響担当)が必ずしもプロとは限らない。地域の祭りや学校行事では、PAは地元のボランティアや音楽経験者が務めることも多い。すると、こちらの意図とは違う調整が行われることがある。
原曲の音源を無視した二重リバーブ、極端なイコライジング、コンプレッサーのかけすぎ。最初のゲインフェーダーを上げただけで放置されることも珍しくない。いや、それどころか必要なケーブルすら現場にない──そんなこともある。
だからこそ、基本的な考え方は「PAに頼らない設計」に尽きる。PAの力量に左右されないよう、自分のオケ・ギター・ボーカルをすべて“完成された音”として出力し、PAにはゲイン調整とリバーブの馴染ませだけをお願いする。これが最も安定する。
◾️オケは“完成品”として渡す
オケはDAW(LogicやProToolsなど)で最終段階まで仕上げ、マスタリングの段階でLUFSを−15〜−16前後に揃えておく。このLUFS設計の詳細や数値の根拠については、別の記事で詳しくまとめているので、そちらも参考にしてほしい。
こうして統一しておけば、どの曲でも均一な体感音量になる。リバーブ・EQ・コンプはPAに任せず、オケの中で完結させる。PAの卓ではEQをフラット、フェーダーを適正位置に上げてもらうだけ。PAが何かしようと手を加える余地を残さないことが重要だ。PA卓側では「オケにはリバーブ不要」「音量のみ調整」と伝えること。これで、誰が操作してもほぼ意図通りの音が出せる。
◾️ボーカルは“体でコンプする”
よほど気がきくPAでない限り、曲のダイナミクスに合わせてボーカル音量をリアルタイムに調整してくれることはない。サビで音量が上がるからといって自動的に上げてくれることもない。だからこそ、声量とマイク距離で“自分がコンプレッサーになる”意識が必要だ。抑えたい時はマイクをやや離し、感情をぶつけたい時は近づける。リハなし現場ではこれが命綱になる。
また、良質なマイクを使うなら余計なボイスエフェクターを挟まない方がいい。ピッチ補正やハーモニー機能を使うと確かに派手にはなるが、音質は劣化し、位相ズレで抜けが悪くなる。目的が“補正”ではなく“表現”なら、シンプルにマイク直出しが最強だ。高性能マイクの持つ自然な倍音と明瞭さを殺さない。それがプロの選択だと思う。
◾️ギターは“支え”として存在させる
通常の弾き語りならギターをそのままPAに送るが、オケと同期する場合は違う。現場での生音は“添え物”に徹する。
PAに任せてしまうとギターが大きすぎてオケを壊したり、音のバランスが崩れるリスクがある。だから自前のオーディオインターフェースで、ギターの音を自分のオケに軽く混ぜてからPAに送る。つまり、PAに渡る時点で「ギター入りのオケ」になっている。もしトーン調整が必要なら、自前のDIやプリアンプで音を整える。この時、ブーストスイッチを仕込んでおくと便利だ。演奏中は通常ボリューム、MCの時だけ少しギターを鳴らして話す──そんな使い方ができる。ステージの流れが自然になる。
◾️ルーティングと出力の設計
ノートパソコンのDAW(Logicなど)からオケを再生し、オーディオインターフェース(例:Babyface Pro)でルーティング(例:Total Mix)を設計する。オケ+ギターをまとめてLR出力し、それをXLRでPA卓へ送る。すでに音量・定位・EQは整っているため、PAはフェーダーを上げるだけ。マイクはPAへ直接モノラルで送る。リバーブやトーン調整も不要で、PA側で自然になじませてもらう。これにより、オケ・ボーカルの双方が“想定通り”の音で出せる。こうした仕組みを事前に設計しておけば、リハがなくても安心して再生できる。
◾️機材トラブルと“即切り替え戦略”
ライブ現場では、どんなに準備を整えてもトラブルは起こる前提で動かなければならない。特に、パソコンやオーディオインターフェースを使ってオケを流す構成では、ケーブルの接触不良や電源トラブル、ソフトのクラッシュなど、どこで何が起こってもおかしくない。
現場で大切なのは「壊れないこと」ではなく、壊れたときに即座に“別ルート”で音を出せることだ。
僕はいつもMacBookからLogicでオケを流しているが、同時にiPhoneにも同じオケを用意している。もしMacが落ちても、iPhoneを1本ケーブルでPAにつなげば、5秒で代替出力に切り替えられる。このたった1本のケーブルが、現場での「全ての安心」を担保する。接続はシンプルだ。
iPhoneのイヤホンジャック(またはLightning/USB-C変換)からステレオミニ→フォンのケーブルで出し、PA側のステレオ入力に送る。つまり、オーディオインターフェース(Babyface Pro)を通さず、スマホ直結でステレオラインを送る。このルートを1本ポーチに入れておくだけで、パソコンが飛んでも何も怖くない。
もちろんその場合、クリック音(カウント)は聞こえない。けれど、それを想定してあらかじめオケに薄くハイハットを混ぜておく。この小さな工夫で、耳がクリックなしでもテンポをつかみやすくなる。練習段階から“クリックなしで乗れるバージョン”を作っておけば、どんな環境でもステージは成立する。
さらに、ギターもマイクも生で送る準備をしておく。Babyfaceが飛んだら、DIからギターを直接PAに、マイクはXLRケーブルで直送。オケだけiPhoneから流して、あとは生で歌う。完璧ではなくても、ステージは止まらない。観客は「続けた」というその姿勢を見て、むしろ心を動かされる。
トラブル対策とは、備品や機材の話だけではない。“一瞬で切り替える判断力”を持っているかどうかだ。自分の中に「壊れても平気」という設計がある限り、どんな現場でも、演奏は自由であり続けられる。
◾️不慣れなPAへの“伝え方”
PAが不慣れな現場では、言葉の使い方ひとつで空気が変わる。「ボーカルもう少し上げてください」ではなく、「ボーカルが少し引っ込んでいるようなので、ほんの少し上げてみましょうか」と言えば、相手も気持ちよく動いてくれる。音量指示を“命令”ではなく“提案”に変えるだけで、現場の空気は温かくなる。結局、音を作るのは機械ではなく人間だから、関係性そのものが音に出る。
◾️現場での“人”としての立ち居振る舞い
ライブの成功を決めるのは、機材でもスキルでもなく、人の態度だと思っている。
僕は以前、あるプロミュージシャンがPAに向かって「何度言ったらわかるんですか!」と声を荒げた瞬間を見たことがある。歌は完璧だった。演奏も見事だった。でもその一瞬で、全ての印象が壊れた。観客の記憶に残ったのは、美しい歌声ではなく、怒った顔だけだった。
音楽は技術ではなく、心が響くもの。心が濁っていれば音も濁る。だから僕は、トラブルがあってもまず笑顔で「大丈夫です」と言うようにしている。その一言が、PAも観客も、そして自分自身を救う。リハがなくても、設営中の空気がすでにリハーサルだ。目線の交わし方、ケーブルの扱い方、そのすべてが音になる。そして何よりも、トラブルが起きた時に乱れず、流れを美しくつなぐこと。それが本当のプロだと思う。
音楽とは技術と人間性の和音。だからこそ、音より先に心をチューニングする。その音が、きっと空気を変える。
◾️エピローグ 音は心の延長線上にある
さて、今日も。朝の光がやわらかく差し込んでくる。外は少し冷たい風。空は高く澄んでいる。この静けさの中に、僕はいつも思う。どんなライブも、どんな現場も、結局はこの瞬間の延長線上にあるんだと。音を出すということは、心を外に出すことだ。ステージの音はその人の生活と地続きにある。
家族との時間、誰かを思う気持ち──それらすべてが声や音に現れる。人間の心は、決して嘘をつけない。
僕が好きなのは“整った音”よりも“誠実な音”。ミックスが完璧でなくても、機材が古くても、そこに伝えようとする心があればちゃんと届く。ライブとは、音で繋がる会話だ。誰かが支え、誰かが聴き、誰かが想う。その連鎖の中に自分が立っていると思うと、マイクを握る手が少し震える。でもその震えも、音になる。
音楽は僕の生き方そのものだ。仕事や家庭、人生のどの場面にも音があり、音を通して心が整う。そして家族の声も、子どもの笑い声も、すべてが音楽の一部だ。
今日もどこかで誰かが歌っている。僕も同じ空の下で歌う。この小さな振動が、誰かの心の奥に届くことを願いながら。音は、心の延長線上にある。だから僕は今日も音を整える。心を整える。音楽とともに、最高の朝が始まる。
愛する家族と、そしてこの空の下で。
☕️ あとがきー現場で本当に役立つ愛用機材リスト
これらから紹介する機材はすべて、僕が実際のライブやレコーディング現場で愛用しているもの。
どれも「安定して音を出す」「心地よく演奏できる」ために選び抜いたものばかり。
どんな環境でも音を“自分の意図通りに届ける”ための信頼の軸。
現場で音を出す人にとって、機材はただの道具ではなく“仲間”のような存在です。
参考にしていただけると幸いです。
■ オーディオインターフェース・PA関連
RME Babyface Pro FS — ステージとPCをつなぐ高音質オーディオインターフェース。安定性が抜群。
CUBE Street EX(Roland) — 屋外でも使える電池駆動のポータブルアンプ。小規模ライブにも最適。
MacBook Pro — DAWでオケを流したり、録音・同期を担うメイン機材。
CANARE マイクケーブル EC10B(10m) — 信頼性の高いプロ用マイクケーブル。ノイズに強く、音がクリア。
ライブ同期や録音の信号経路を安定化。Babyface Pro FSは現場で音を“意図通りに”送り出す心臓部です。
■ マイク・楽器類
SHURE KSM8 ダイナミックマイク(デュアルダイアフラム) — 近接効果が少なく、自然な声質を保つプロ仕様マイク。
SUZUKI ブルースハープフォルダ — ハーモニカをハンズフリーで演奏できるフォルダー。
HOHNER SPECIAL 20 安定した吹奏感と温かい音色の定番モデル。
Elixir アコースティックギター弦 NANOWEB フォスファーブロンズ HD Light — 長寿命で明るいトーンを保つ定番弦。
KSM8は安定感と繊細さを両立。ブルースハープ+フォルダでアコースティック表現が一気に広がります。
■ プリアンプ/DI/エフェクト系
FISHMAN ToneDEQ AFX Preamp, EQ and DI with Dual Effects — アコギの音を自然に補正・強化できる多機能プリアンプ。
sE Electronics DM2 T.N.T(マイクプリアンプ) — マイク信号を力強く、ノイズレスにブーストするインラインプリアンプ。
TC-Helicon VoiceLive Play — ボーカルにリバーブやハーモニーを加えられるライブ用エフェクター。
BOSS RC-10R ルーパー — リズム機能付きの高性能ルーパー。弾き語りの幅を広げる相棒。
BOSS FS-6 フットスイッチ — 足元でエフェクトやループ操作を切り替えるためのコントローラー。
ToneDEQはアコギの倍音を自然に活かしつつDIとしても優秀。VoiceLive Playはボーカル演出、RC-10Rで同期ループの幅が広がります。
■ イヤモニ・モニター環境
SHURE PSM300 イヤモニシステム — ワイヤレスで自分の演奏をモニターできる送受信システム。
SHURE SE215 イヤホン — ステージの細かい音までクリアに聴ける定番モニターイヤホン。
この2つの組み合わせが鉄板。どの会場でも“信頼できる距離”で自分の音を確認できます。
■ 周辺アイテム
エフェクターボードケース — 複数の機材を安全に収納・運搬するための頑丈なケース。
持ち運びと設営をスムーズにするための必需品。現場トラブルを減らし、セッティングも素早く。
ライトニング イヤホンジャック 変換 iPhone
オーディオケーブル 変換ステレオミニプラグ 6.35mm 2分配ケーブル
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