日々のことば(ブログ)

✍️9月1日問題──数字の奥にある子どもの心

おはよう。今日から9月が始まった。空は曇りがちで、雨粒が窓を打ちながらも、ときおり雲の隙間から光が差してくる。夏と秋の境目にある静かな朝だ。

今日、全国の子どもたちが長い夏休みを終えて学校へ向かう。毎年この日を迎えるたびに繰り返し語られるのが「9月1日問題」だ。夏休み明けに子どもの自殺が集中するという現実。静かな言葉だが、その奥には命がかかっている。

内閣府や警察庁の統計は40年にわたり一つの傾向を示している。18歳以下の自殺が最も多い日が9月1日だということだ。

2024年には小中高生あわせて529人が自ら命を絶った。これは統計開始以来最多の数であり、月別では9月だけで59人が亡くなっている。静かな数字だが、その背後には、毎週のように複数の子どもが命を落としている現実がある。

背景を見ていくと、文部科学省の調査では「学業不振」「友人関係の不和」「進路への不安」が多くを占める。2023年度の例では、学業不振が65件、友人関係の不和が60件、進路への不安が50件以上に上った。だが一方で、全体の半数近くは「原因不明」とされている。つまり多くの子どもは、声をあげられず、誰にも理解されないまま追い詰められているということだ。

◾️心の流れをたどる

夏休みという解放の時間から一転して学校に戻る。その心理的負担は、時間の経過とともに形を変えていく。

まず迎える9月1日の朝。眠れぬ夜を過ごし、布団の中で涙を流しながら「行きたくない」と言葉にならない声を漏らす子どもがいる。頭痛や腹痛を訴えることもあるが、それは体ではなく心が悲鳴をあげている証だ。

続く最初の一週間は、生活リズムがまだ整わず、友達や授業に気持ちが追いつかない。笑顔をつくって教室に座っていても、内側では「ここに居場所はない」という感覚に押しつぶされていることがある。

やがて三週間から一か月が経つ頃、周囲の子どもたちは新しいリズムに馴染み始める。そのなかで、自分だけが遅れているという焦りが強くなる。「取り残される」という思いが、さらに不安を大きくしていく。

そして三か月が過ぎる頃には、学業や人間関係の現実が重くのしかかってくる。成績への不安、友人関係の複雑さ、部活動のプレッシャー──それらが絡み合い、心の負担は一層複雑に、出口の見えないものになっていく。

これは特別な誰かだけの物語ではない。どの家庭にも、どの学校にも潜んでいる可能性のある現実だ。

◾️心理学・教育学の視点から

子どもの心の動きを理解するには、心理学や教育学の知見が大きな助けになる。数字や統計では見えない背景を、学問の言葉は補ってくれる。

・転機に弱いという特性

発達心理学では、子どもは「生活の変化」に強い不安を感じやすいとされる。夏休みから新学期への移行は、環境心理学的にも「大きなストレスイベント」に数えられる。大人にとっての転職や引っ越しに近い負担だ。昨日まで自由だった日々が、急に時間割に縛られる──そのギャップが子どもの心を揺さぶる。

・自律神経の乱れ

睡眠リズムや体内時計が崩れると、自律神経のバランスも乱れる。子どもは大人より調整機能が未熟で、その不調が一気に表面化する。朝、体が動かなくなるのは「怠け」ではなく心身が悲鳴をあげているサインだ。

・自己効力感の低下

教育心理学の研究では、自分にはできるという感覚(自己効力感)が低下すると、不安や無力感が強まる。夏休み明けのテストで「やっぱり自分はダメだ」と思い込むと、その後の挑戦意欲まで奪われる。友人関係の不和が重なると、「どこにも居場所がない」という思い込みにつながりやすい。

・孤立感の危険性

社会心理学では「孤立はストレスの最も強い増幅因子」とされる。誰ともつながれない感覚は、失敗そのものよりも深刻なダメージになる。教室の中で自分だけ取り残されたと感じるとき、その小さな体験が命を左右するほどの重さを持つことがある。

・防衛機制の働き

臨床心理学では、人が強いストレスに直面すると無意識のうちに「防衛機制」を使うとされる。子どもも同じで、「問題をなかったことにする否認」や「自分の弱さを他人に押しつける投影」「冗談にして笑い飛ばすユーモア」などで心を守ろうとする。一時的には役立つが、長く続けば本当の気持ちが見えなくなり、周囲も気づきにくくなる。

・認知の歪み

認知行動療法では、人はストレスの中で極端な思考に陥りやすいとされる。たとえば「一度失敗したらすべて終わり(全か無か思考)」「一人に嫌われたら誰からも嫌われている(過度の一般化)」といった考えだ。子どもは柔軟さを持つ一方で、経験が浅いためにこうした歪みに強く引き込まれやすい。結果として「逃げ場がない」「自分は役に立たない」と感じやすくなる。

・レジリエンスと支えの力

近年の教育学では「レジリエンス(回復力)」の差に注目が集まっている。困難に直面したときに立ち直れるかどうかは、本人の性格よりも周囲の支えや励ましの有無に左右される。たとえ小さな声かけや共感でも、子どもにとっては大きな回復のきっかけになる。

これらの理論は一つひとつ独立しているようでいて、実際には互いに絡み合っている。生活の変化が自律神経を乱し、自己効力感を下げ、そこに孤立感や認知の歪みが重なる──そうして子どもの心は少しずつ追い詰められていく。9月1日問題を理解するというのは、こうした連鎖を「必然の心理反応」として見つめ直すことでもある。それに気づくことが、支えの最初の一歩になる。

◾️本人に届けたいこと

「一人で抱えなくていい」――これはただの優しい言葉ではなく、心理学的にも深い意味を持っている。

カウンセリング理論では、人は「自分が理解されている」と感じた瞬間に、心の奥底から自己回復の力が働き出すとされる。言葉にした気持ちを受け止めてもらえるだけで、閉ざされていた心が少しずつ動き出す。だからこそ「話していい」「泣いていい」と伝えることは、子どもにとって命をつなぐほど大きな意味を持つ。

そして、毎日の中に小さな楽しみを見つけること。これは認知行動療法でも効果が確認されている、不安を軽減する具体的な方法だ。学校で楽しいことが見つからなくても構わない。放課後に好きな漫画を読むことでもいい。夜にゲームの続きを楽しむことでもいい。自分の部屋で音楽に浸ることでもいい。「明日が来るのは嫌だけど、その小さな楽しみのために一日を生きてみよう」――そう思えるだけで、人は不思議と生き抜く力を取り戻す。

未来の大きな夢なんて今はなくていい。そんなものを考えられる余裕がなくてもいい。むしろ、今日を過ごすための「ほんの小さな希望」があれば十分だ。科学的にも、希望を持つ人はストレス耐性が高まり、抑うつのリスクが下がるとされている。だから、小さな楽しみを持つことは、感覚的な慰めではなく、根拠のある支えだ。

僕が伝えたいのは、ただ一つ。

「たった一つの楽しみを握りしめていれば、人は必ず生き延びられる」ということだ。

それがどんなに小さな光でも、絶望の暗闇に立つ人を支えるには十分だと、僕は信じている。

◾️周りの大人にできること

子どもが「学校に行きたくない」と口にしたとき、それをどう受け止めるかで未来は変わる。ここで「怠けるな」と切り捨ててしまえば、その言葉は一生の傷になる。逆に「つらいね」とただ受け止めるだけで、その経験は心の奥に安心の土台を残す。児童心理の研究でも、否定された記憶は自己肯定感を深く損ない、受け止められた経験は安心感の根っこになるとされている。

大人にできるのは、決して特別なことじゃない。少し遅れて行ってもいい、今日は保健室からでもいい、あるいは今日は家で休んでもいい。そんなふうに選択肢を一緒に探してやることだ。二択で追い込むのではなく、「この子が今できる一歩」を共に見つける。そういう姿勢こそが、本人の力を奪わずに守ることにつながる。

そして、子どもを支えるのは大人だけじゃない。友達の存在も大きい。声をかけ続ける必要はない。ただ隣に座ってくれるだけで、放課後に一緒に歩いて帰るだけで、本人は「ここにいていいんだ」と感じられる。逆に「頑張れよ」と安易に背中を押す言葉や「なんで来ないんだよ」という詰め寄りは、善意でも心を押し潰してしまう。必要なのは派手な励ましではなく、ただ「一緒にいる」という姿勢だ。

教育学の調査では、居場所が複数ある子どもほど、不登校や自殺のリスクは低いとされている。学校だけではなく、家庭、地域、あるいはオンライン──どこでもいい。子どもが「ここなら自分でいられる」と思える場所がいくつもあれば、それは命を守る力になる。だから僕たち大人は、学校に行けないときでも「ここも居場所だ」と言える空間を差し出してやりたい。

支え方にマニュアルはない。段階によっても、子どもによっても違う。同じ言葉が救いにもなれば刃にもなる。だからこそ、僕らにできるのは「この子はいまどんな気持ちでいるのか」と慎重に感じ取ることだ。無理に答えを出すのではなく、目の前の気配に耳を澄ませる。その姿勢こそが、本人を孤立から救う最初の一歩になるのだと思う。

◾️昔から変わらないこと、今だからできること

昔も今も変わらないのは、人が一人で生きられないということだ。支えを求めること、一緒に歩むこと。それが心を守る。どんなに時代が進んでも、この根本は変わらない。

一方で、今の時代だからこそできることもある。学校や家庭だけでなく、SNSや地域活動、NPOの取り組みなど、居場所は多様になった。そして現代の特徴として大きいのは、相談窓口とAIの存在だ。

電話やLINEの公式窓口は、専門の相談員が対応してくれる安心感がある。孤独な夜に声を届けられる「チャイルドライン」や「24時間子供SOSダイヤル」は、すでに多くの子どもにとって命をつなぐ窓口になっている。直接人に話すことで、心の重荷が少しずつ軽くなる。

一方で、AIへの相談という新しい手段も広がっている。人に言いにくいことも匿名で吐き出せるし、24時間どこにいても応答が返ってくる。心理学的にも「感情を言葉にすること自体がストレスを軽減する」ことは知られており、その意味ではAIも十分に役立つ。ただ、AIは人間のように責任を背負うことはできない。誤った助言や不十分な回答にぶつかる危うさもある。だからこそ、AIは万能の解決者ではなく「心を整理するための道具の一つ」として使うのが現実的だ。AIに吐き出した言葉が、その後に誰かへ相談するきっかけになることもある。

結局のところ、大切なのは「一人で抱え込まないこと」だと思う。昔から変わらない人とのつながりと、今だからこそ使えるAIやデジタル相談。その両方を組み合わせながら、子どもたちが「ここにいていい」と思える環境を差し出していくこと。それが、これからの時代に僕らができる新しい支え方なんだと思う。

◾️すぐに使える相談窓口

もしも「もう限界だ」と思ったら、一人で抱えないで、まずはここに連絡してほしい。

チャイルドライン(18歳まで)

0120-99-7777(毎日16時〜21時、通話無料)

24時間子供SOSダイヤル

0120-0-78310(通話無料、24時間365日)

いのちの電話

0570-783-110(10時〜22時)

0120-783-556(毎日16時〜21時、毎月10日はフリーダイヤル)

こころの健康相談統一ダイヤル

0570-064-556(地域の窓口につながる)

自殺対策相談ダイヤル「#7111」または「#988」

全国どこからでも、最寄りの相談窓口につながる

電話が苦しければ、LINEやチャット相談も広がっている。匿名でも利用できるから安心してアクセスできる。

◾️終わりに

9月1日問題は、冷たい数字では終わらない。その背後には、心理学が語る「ストレスの必然」もあれば、教育学が示す「支えの構造」もある。そして何より、一人ひとりの命がある。

希望を見失わないこと。小さな光を探すこと。一人で抱え込まず、声を出すこと。

それは科学的にも正しいし、なにより人の心にとっての真実だ。

数字は厳しい。理論も冷静だ。けれど、そのすべてを超えて、人の心は強い。

◾️僕自身の今日

そんなことを思いながら、僕もまた、今日は胸がざわつく日だ。7月に受けたキャリアコンサルティング技能士の試験結果が発表される。全力を注いだ試験だった。論述では思わぬ出来事に直面し、ロールプレイではかつて一緒に働いた部下が相手役として登場し、不意を突かれて動揺した。けれど今振り返れば、それもまた人生の巡り合わせのひとつだったのだと思う。結果がどうであれ、その経験が僕の力になっていることは間違いない。今日は静かに結果を受け止め、次に向かって歩き出したい。

そして何より、家族のことを思う。笑っているだろうか。今日という日をそれぞれどう迎えているのだろうか。心の中で一人ひとりの名前を呼び、愛していると呟く。きっとそれぞれが自分の力で乗り越えていく。そう信じているし、その力を誇りに思っている。今日もありがとう。またね。


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松永 修 – MUSICおさむ

松永 修|MUSICおさむ|国家公務員|キャリコン|作家・メディアクリエイター/音楽クリエイター(シンガーソングライター)|DTM作編曲

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