おはよう。流されたサンダル、ゴーグル、浮き輪、遊具は追いかけない。川でも海でも、そしてプールでも、まずこれを覚えておいてほしい。
物は買い直せる。命は戻らない。
夏になると、海や川、プールで人が流されたというニュースを目にする。楽しい時間の中で気持ちが少し緩んだ瞬間や、流された物を取りに行こうとした時に、潮や川の流れに巻き込まれ、戻れなくなることがある。
これは、どこか遠くで起きる特別な話ではない。次のあなたの海や川の予定で起こるかもしれない。一つ意識しておくだけで、その場の行動が変わり、もしかしたら人生そのものが変わるかもしれない話だ。
7月30日は「サンダルバイバイの日」
昨日の7月30日は「サンダルバイバイの日」と呼ばれている。
「7=流された、3=サンダル、0=追いかけない」という覚え方だ。国が制定した日ではなく、水難事故の予防に取り組むNPO法人AQUAkids safety projectが制定した啓発日である。
同団体が伝えているのは、とても短い約束だ。サンダルやおもちゃが流されたら、追いかけずにバイバイする。
子どもは、物をなくしたら叱られると思うかもしれない。大人も、お気に入りの物や少し高かった物なら、反射的に手を伸ばしたくなるだろう。取り戻そうとすること自体は、人として自然な反応だと思う。
だから、水辺で物が流されてから考えるのでは遅い。海や川へ出かける前に、大人と子どもで「流された物は追わない」「なくしても叱らない」と約束しておく。とっさの反射を、事前の約束で止めるのだ。
参考:NPO法人AQUAkids safety project「サンダルバイバイ」、「サンダルバイバイの日」2026年の案内
僕も、流された物を追いかけたことがある
僕自身、海で浮き輪が沖へ流され、自分で取りに行ったことがある。お気に入りのシュノーケルが海の底に沈み、必死に潜って取りに行ったこともある。川では、浮き輪に乗ったまま、強い流れに流された経験もある。
結局、何も起きなかった。でも、今になって振り返ると、やっぱり怖い。何事もなく戻れたからよかっただけで、一つ何かが違えば、戻れなかったかもしれない。
子どもが、気づいた時には頭から水面へ突っ込み、ほんの1秒ほどのことだったが、水を飲んで咳き込んだこともある。たった1秒でも、心臓が冷たくなるような、ヒヤリとする瞬間だった。
水は本当に怖い。楽しい刺激を求めるために、命まで差し出してはいけない。
物は買い直せる。命は買い戻せない。本当に、そう思う。
川は、見た目だけでは流れも深さも分からない
こども家庭庁は、川には一見浅く見えても急に深くなる場所があり、場所によって流れの速さも違うと注意を呼びかけている。水際のボールを拾おうとして深みにはまったり、流されたサンダルを追って溺れたりすることも紹介されている。
2023年夏、河川で死亡・行方不明となった中学生以下の子どもは10人で、当時の過去5年間では最多だった。
そのため、こども家庭庁は、川に落ちた物を追いかけたり拾おうとしたりしないこと、子どもが川にいる時は大人が手の届く範囲にいること、そして子どもだけでなく大人もライフジャケットを着けることを勧めている。
ライフジャケットを着けたから、目を離してよいわけではない。大人が近くにいるから、必ず防げるわけでもない。「誰かが見ているだろう」ではなく、誰が見守るのかを決め、その人が手の届くところにいることが大切になる。
参考:こども家庭庁「ひとごとではない川での水難事故 どうすれば防げるの?」
海では、浮き輪が人の泳ぐ速さを超えて流されることがある
海上保安庁のWater Safety Guideには、波打ち際から約2メートルの場所で浮き輪につかまっていた小学生が、強風の影響で沖へ流された事例が掲載されている。
父親が気づいた時には沖へ約10メートル流されており、泳いで追いかけたものの追いつけなかった。子どもは最終的に岸から約100メートルの場所で救助艇に救助された。
この事例は、父親を責めるためのものではない。目の前で子どもが流されたら、すぐに助けに行こうとするのは自然な反応だ。しかし、水に浮く物は人が思う以上に風の影響を受け、速く流されることがある。救助する側まで戻れなくなれば、事故はさらに大きくなる。
海には、岸から沖へ向かう離岸流もある。もし自分が流された場合は、慌てて流れに逆らい岸へ泳ぎ続けるのではなく、海岸と平行に泳いで流れから抜ける。泳ぐことが難しければ、無理をせず浮いて救助を待つという行動も海上保安庁が案内している。
参考:海上保安庁 Water Safety Guide「海で遊ぶときの注意」、海上保安庁「海水浴の心得」
サンダルだけではない。ゴーグルも浮き輪も追わない
「サンダルバイバイ」という名前は覚えやすい。でも、追いかけないのはサンダルだけではない。
ゴーグル、帽子、ボール、浮き輪、ビーチボール、遊具。何が流されても、水へ取りに行かない。
川や海では、物が流れていく方向が、そのまま人が安全に進める方向とは限らない。むしろ、物が速く流れていること自体が、そこに強い流れや風があるという合図かもしれない。
プールは海や川とは環境が違うが、家族の約束は同じでいい。ゴーグルや遊具が離れても、慌てて深い場所へ追いかけず、まず足のつく安全な場所へ戻り、監視員や近くの大人へ伝える。
流された物は追いかけない。
迷った時に思い出すのではなく、迷う前に体を止める言葉として覚えておきたい。
我が子が流されたら、自分はどうするだろう
大切な我が子が溺れたら、自分はどんな行動を起こすだろう。僕は、きっと一瞬で飛び込むと思う。自分の命を顧みず、命を懸けてでも助けに行くだろう。それは理屈ではなく、本能なのかもしれない。
では、流されているのが他人だったら、同じようにできるだろうか。いろいろと自問自答する。子どもが流された瞬間に「自分も危ないから」と冷静に救助を待てるのか。想像するだけでも、冷や汗が出る。
だからこそ、そういう瞬間を起こさないために、事前に予防し、意識しておくことが大切なのだと心から思う。そして、もし起きてしまった時にどう動くのかも、水辺へ行く前に家族で考えておかなければならない。
本能を否定するためではない。その大切な人を本当に助けるために、自分一人で飛び込む以外の行動を、先に知っておくためだ。
人が流された時も、一人で衝動的に飛び込まない
海上保安庁は、溺れている人を見つけた時には、まず監視員、ライフセーバー、周囲の人へ助けを求めるよう案内している。
監視員のいない場所では、海上保安庁の118番、警察の110番、消防・救急の119番へ状況に応じて通報する。事故の場所、人数、何が起きたのかを落ち着いて伝え、可能なら流された人を見失わないようにする。
近くに浮き輪、ライフジャケット、ビート板、ボディーボード、大きめのペットボトルやクーラーボックスなど、浮力を確保できる物があれば、相手にぶつけないよう注意して手の届くところへ投げる。
ただし、自分が危険な場所まで近づかない。助ける側の安全を第一にすることは、見捨てることではない。二人目の事故を出さず、救助を本当に届かせるための行動だ。
参考:海上保安庁 Water Safety Guide「溺れた人を見たときの対処法」
2025年夏にも、535人が水難に遭っている
警察庁の速報値によると、2025年7月から8月までの2か月間に、全国で446件の水難が発生し、水難者は535人、死者・行方不明者は241人だった。中学生以下の水難者は103人、そのうち死者・行方不明者は15人だった。
ただし、「流されたサンダルや物を追ったこと」が水難事故全体の何割を占めるのかは、公的資料から確認できていない。でも、一件でも、その時に「追いかけない」という言葉が頭に浮かび、足を止めることができたなら、この短い約束には意味があると思う。
水辺へ行く前に、これだけは一緒に確認しよう
海、川、プールへ出かける前に、次のことを大人と子どもで声に出して確認してほしい。
- 流されたサンダル、ゴーグル、浮き輪、遊具は追いかけない。
- 物をなくしても、子どもを叱らない。
- 川や海では、体に合ったライフジャケットを子どもも大人も着ける。
- 子どもは、大人の手が届く範囲で見守る。
- 人が流されても、一人で衝動的に飛び込まない。
- 大声で助けを求め、監視員へ知らせ、必要に応じて118・110・119へ通報する。
- 使える浮く物があれば、安全な場所から届ける。
- 助ける時も、自分の安全を第一にする。
全部を完璧に覚えられなくてもいい。まずは、これだけ覚えておいてよ。
流されたサンダル・ゴーグル・浮き輪は追いかけない。
物は買い直せる。命は戻らない。
楽しい夏の思い出が、最後まで楽しいままであるように。大切な人が「行ってきます」と出かけて、いつもの笑顔で「ただいま」と帰ってこられるように。
今日も命がここにあること、大切な人と同じ時間を過ごせることに感謝しながら、伝えられる言葉を一つずつ渡していきたい。愛と感謝を胸に。今日も一歩ずつ、進んでいこう。
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