日々のことば(ブログ)
✍️広島・中央公園ファミリープール、最後の夏──長蛇の列が示した「市民の場所」の価値と2032年度の未来

✍️広島・中央公園ファミリープール、最後の夏──長蛇の列が示した「市民の場所」の価値と2032年度の未来

おはよう。広島市中区基町の中央公園ファミリープールは、2026年8月31日をもって、現在の施設としての営業を終える。

ただし、広島の都心からプールが完全に消えるわけではない。

現在のファミリープールはいったん解体され、その場所には、流れるプールやウォータースライダー、乳幼児用プール、屋内遊戯施設などを備えた、年間を通じて遊べる新しい「ファミリーパーク」が整備される予定だ。供用開始の目標は2032年度。つまり、現在の施設との別れの後、約5年間の空白期間が生じる見通しである。

2026年7月18日、中央公園ファミリープールの入場を待つ長蛇の列

そこで見たのは、「古くなったから役目を終える施設」という言葉だけでは説明できない光景だった。
入口へ向かって延びる、長蛇の列。

周辺の駐車場は満車。その少し先も満車。エディオンピースウイング広島でサンフレッチェ広島の試合が開催されていたわけでもない。それでも、中央公園一帯へ次々と家族連れが集まっていた。

厳密な交通量調査をしたわけではないため、周辺の混雑がすべてプール利用者によるものだと断定はできない。

しかし、現地で見た家族連れの流れと入口の列を考えれば、少なくともファミリープールそのものが大きな人の流れを生んでいたことは間違いない。

「最後だから行こう」

そう考えた広島市民が、想像以上に多かったのだと思う。


700万人が通った、広島の夏の原風景

中央公園ファミリープールが開園したのは1979年7月1日。

2026年7月18日の中央公園ファミリープール正面入口
中央公園ファミリープール正面入口。1979年の開園以来、広島の夏を支えてきた。

現在の施設には、一周約260メートルの流れるプール、水深25~40センチのこどもプール、50メートルの多目的プールがある。派手な巨大テーマパークではない。それでも、広島の都心にあり、家族が比較的利用しやすい料金で一日を過ごせる、市民のためのレジャープールとして親しまれてきた。

広島市の資料によれば、開園した1979年の来園者は約30万2,000人。その後は減少したものの、平成5年以降もおおむね年間10万~15万人で推移してきた。

2023年度は約9万7,000人、2024年度は約10万人。

少子化で子どもの数が減ったから、誰も利用しなくなったわけではない。現在も、夏の2か月間だけで約10万人が利用する施設なのだ。広島市の再整備基本構想にも、その数字が記録されている。

そして2026年7月13日、累計入園者数は700万人に到達した。

700万人という数字は、単なる利用実績ではない。

幼い頃に親と来た子どもが、中高生になって友達と来る。やがて大人になり、自分の子どもの手を引いて戻ってくる。

世代が何度も循環してきたことの証明だ。

僕自身もそうだった。
昨年の記事、「カウントダウンが始まった夏──ファミリープールと、僕の歩いてきた道」で、僕はこう書いた。

ファミリープールは、ただの施設じゃない。
それは「僕がどんな人生を歩いてきたか」を思い出させてくれる、いわば人生のタイムカプセルだ。

あの記事を書いた時点では、「あと2回の夏」が残っていた。
だが今は違う。もう、最後の一回である。


昨年は「カウントダウン」だった。今年は本当の別れになった

昨年、僕は「最後の記憶を刻むときだ」と書いた。
今年、実際に現地へ行ってみると、その言葉が自分の想像以上に重くなって返ってきた。

長蛇の列を見ながら、思った。みんな、別れに来ている。
子どもを遊ばせるためだけではない。自分の記憶を確かめるために来ている大人も、きっといる。

親に連れてきてもらった日のこと。友達とふざけながら流れるプールを何周もしたこと。初めて深い場所を怖いと思ったこと。焼けたプールサイドの熱さ。濡れた体で食べたフライドポテト。帰りの車で眠ってしまったこと。

施設はコンクリートと配管と水でできている。だが、市民にとっての施設の価値は、建物の耐用年数だけでは測れない。

そこへ何度通い、誰と過ごし、どんな記憶を残したのか。
その積み重ねが、公共施設を「市民の場所」に変えていく。


なぜ、まだ人が集まるファミリープールを廃止するのか

「これほど混雑しているのに、なぜ終わらせるのか」
多くの広島市民が、そこを疑問に思うはずだ。
理由は一つではない。

1.開園から約半世紀が経過し、施設の耐用年数を超えている

広島市は、開園から45年以上が経過し、プールの耐用年数を超えていると説明している。
プールサイドのひび割れや塗装は毎年部分的な修繕が必要になり、今後も現在の機能を維持するには大規模な更新が避けられない。人が来ているかどうかとは別に、施設そのものが限界へ近づいている。
安全を守りながら営業を継続するには、相当な費用が必要になる。

2.年間のうち、営業できるのは夏の約2か月だけ

ファミリープールの営業期間は、基本的に7月と8月。都心の約1万7,000平方メートルという広い場所が、残りの約10か月は十分に活用できない。広島市は、この季節限定性を大きな課題としている。ただし、「夏しか使えないから価値が低い」と単純化してはいけない。夏のわずか2か月で約10万人が利用するという事実は、それだけ市民の需要が集中していることも意味する。問題は利用者がいないことではない。大きな需要が夏だけに集中する施設を、老朽化したまま維持し続けられるか、という構造的な問題なのである。

3.中央公園全体の再編が進んでいる

ファミリープールの周辺には、エディオンピースウイング広島、ひろしまゲートパーク、広島グリーンアリーナ、こども文化科学館、こども図書館、広島城などが集まっている。広島市は中央公園全体を、施設ごとに分断された場所ではなく、人が歩いて回り、遊び、学び、滞在できる都心空間として再編しようとしている。現在のファミリープールは周囲を塀で囲まれ、営業期間も限られている。市の資料は、この閉鎖性によって、都心立地や周辺施設との連携を十分に生かせていないと指摘する。

4.専用駐車場がなく、自動車利用が集中すると対応しきれない

中央公園ファミリープールには、来園者専用駐車場がない。広島市も、周辺の有料駐車場または公共交通機関の利用を案内している。広島市の施設案内にも、専用駐車場がないことが明記されている。

混雑日に、自動車で来園する家族が集中すれば、周辺駐車場は簡単に埋まってしまう。これは新施設になれば自動的に解決する問題ではない。年間利用型になれば、人の流れは夏以外にも広がる。そのため、公共交通との接続、送迎動線、自転車利用、周辺駐車場との情報連携まで含めた交通設計が必要になる。


「プールがなくなる」は半分正しく、半分違う

今回の再整備について、「ファミリープールが廃止され、プールがなくなる」と理解している人もいるかもしれない。正確には、現在のファミリープールは2026年夏で営業を終えるが、新施設にもプール機能を設ける方針である。

2026年2月に広島市が示した整備概要では、新施設の目指す姿を、

おもいっきり“からだ”を動かして遊べる「ファミリーパーク」

としている。

現時点で導入が示されている主な機能は、次のとおりだ。

  • 流れるプール
  • ウォータースライダー
  • 乳幼児用プール
  • 親水機能
  • 大型遊具、アスレチック遊具
  • 大屋根など、日差しや雨を防ぐ機能
  • 屋内遊戯施設・遊び体験施設
  • 仮設プール機能

面積配分案では、プールが約1万1,600平方メートルで全体の65%。屋外遊び場が約3,600平方メートル、屋内遊び場が約1,500平方メートル、園路などが約1,300平方メートルとされている。

つまり、再整備は「プールを消して商業施設だけにする」計画ではない。
むしろ、市内唯一のレジャープール機能を継承しながら、夏以外にも子どもが遊べる場所へ広げようとしている。

ただし、これは現時点の計画である。
具体的な遊具、料金、営業日、利用方法、常設プールと仮設プールの構成などは、これからの事業者公募と設計で決まる。完成予想図だけを見て、すべて確定したと思わないほうがいい。


新施設の開業は2032年度。最大の問題は「5年間の空白」だ

新施設の供用開始目標は2032年度。
現在の施設が2026年8月末で営業を終えるため、順調に進んでも約5年間、現在と同じファミリープールは利用できなくなる。

なぜ、これほど時間がかかるのか。解体と建設だけではない。
この場所では、埋蔵文化財の発掘調査が必要になる。さらに、広島市は市が資金を調達し、民間事業者が設計、建設、管理運営を一括して担う「DBO方式」を採用する。事業者の公募、審査、設計、解体、発掘調査、建設という段階を経るため、完成まで長い時間が必要になる。

想定整備費は50億~55億円。

広島市は、物価上昇も見込みながらこの金額を示している。2026年2月の広島市資料では、2032年度の供用開始を目標とし、閉鎖期間中の代替機能も検討するとしている。

ここが、市民にとって最も重要な部分だ。
5年は、子どもにとって長い。今年6歳の子どもは、新施設が開く頃には11歳前後になる。今年、小学校高学年の子どもは、中学生や高校生になっている。

「新しい施設ができるから大丈夫」では済まない。
子どもの夏は、翌年へ繰り越せないからだ。

広島市は仮設プールを含む代替機能を検討しているが、具体的な場所、規模、開始時期、料金などは、現時点では確定情報として示されていない。

市民が今後注目すべきなのは、完成後の華やかな施設だけではない。
完成までの5年間に、子どもたちの水遊びの機会をどう確保するか。こここそ、行政が明確に示す必要がある。


大混雑が行政に突きつけているもの

サッカーの試合がない日でも周辺駐車場は満車が続き、ファミリープールには長い列ができていた。

もちろん、「最後の夏」という特別な事情もある。通常年より来園が集中している可能性は高い。
それでも、この光景から見えることがある。

広島市民は、都心で子どもを思い切り遊ばせられる場所を求めている。高価な旅行や大型テーマパークでなくてもいい。公共交通で行ける。比較的低料金で入れる。乳幼児から高校生まで、それぞれの遊び方ができる。親子で一日を過ごせる。

ファミリープールが担ってきたのは、単なる娯楽ではない。子育て家庭にとっての公共インフラだったのだ。新しい施設に収益性や効率性が必要なのは分かる。税金を使う以上、年間を通じた利用や持続可能な運営を考えるのも当然である。

だが、民間活力の導入が、料金の上昇や予約制への偏り、利用時間の細分化につながれば、これまで気軽に利用していた家庭が遠ざかる可能性もある。新施設の評価基準は、「きれいになったか」だけでは足りない。

  • 市民が利用できる料金か
  • 予約なしでも行ける余地があるか
  • 低年齢児から中高生まで遊べるか
  • 障害のある子どもも一緒に楽しめるか
  • 猛暑や雨天でも安全に過ごせるか
  • 公共交通で利用しやすいか
  • 周辺交通や駐車場の混乱を抑えられるか
  • 夏だけでなく、年間を通じて本当に市民が使えるか

この視点が欠かせない。


2026年、最後のファミリープールへ行く人が知っておきたいこと

2026年の現在の施設での営業は、8月31日までと報じられている。
営業時間は午前9時から午後6時まで。最終入園は午後5時。

料金は、大人790円、65歳以上と小・中・高校生などは340円、乳幼児は無料である。
ただし、2026年7月22日は清掃・設備点検による休園と報じられている。広島市の一般案内には「7月1日から8月31日まで」とあるため、実際に行く前には、必ず施設の最新情報を確認してほしい。

そして、週末や夏休み期間は相当な混雑を覚悟したほうがいい。
専用駐車場はない。できる限り、アストラムライン、市内電車、バスなどの公共交通を使う。どうしても車で行く場合は、近隣だけを当てにせず、離れた駐車場から公共交通や徒歩で向かう選択肢も考えておいたほうがいい。

熱中症対策も必要だ。
入場前の列で長時間待つ可能性がある。水に入る前だから大丈夫ではない。帽子、飲み物、タオル、日差しを避ける準備をしておきたい。
「最後だから」と無理をしないこと。
記憶を残す夏が、体調を崩す夏になってはいけない。


これは終わりの記事であり、広島の次の問いを始める記事でもある

昨年の記事で、僕はファミリープールを「人生のタイムカプセル」と書いた。
今年、最後の夏を迎え、その意味がさらに分かった気がする。

施設が古くなる。街が変わる。親だった人が祖父母になり、子どもだった人が親になる。
役目を終えるものがあり、新しく生まれるものがある。

それ自体を止めることはできない。だからこそ、何を壊し、何を残し、何を次の世代へ渡すのかを、丁寧に考えなければならない。流れるプールという設備を残すだけでは、ファミリープールの継承にはならない。

気軽に行けること。家族の所得にかかわらず遊べること。小さな子どもも、大きくなった子どもも、それぞれの夏を過ごせること。親が安心して見守れること。

そして何年か後、「あそこへ行ったね」と家族で話せること。
それらを新しい場所へ引き継いでこそ、本当の意味での継承になる。

長蛇の列の中にいた一人ひとりに、それぞれの人生があった。
最後のファミリープールを、ただ「古い施設の廃止」で終わらせてはいけない。

700万人が残した記憶と、これから育つ子どもたちの時間を、次の広島へどうつなぐのか。
その答えを見届けたい。

そして今年の夏、行ける人は、もう一度あの水へ会いに行ってほしい。
写真だけでは残らない、水の冷たさ。

照り返すプールサイド。家族の声。流れるプールを一周する、あの時間。
生きている今は、いつか必ず懐かしくなる。

だから今日を大切にする。家族と過ごせる一日を、当たり前だと思わずに生きる。
愛と感謝を込めて、広島のひとつの夏を見送ろう。

心はいつも、となりにある。心ひとつ。バイバイ。


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松永 修|MUSICおさむ

広島で、家族と日常を大切にしながら、音楽と文章をつくっています。作詞・作曲から、歌、演奏、録音、映像、発信まで、自分の手で育てています。音と言葉で、人生に小さな灯りを。

松永修が運営する個人事業「言と音LIFE BASE」の創作ブランドが「MUSICおさむ」です。

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