この記事は、SoftBank World 2026 孫正義氏講演をMUSICおさむ/松永修がまとめた記事です。孫さんの講演内容を詳しく知りたい読者におすすめです。
AIエージェント100兆個、ヒューマノイド、ChatGPT 5.6、データセンター、サイバー防衛まで
※この記事は、2026年7月14日に配信された「SoftBank World 2026」における孫正義氏の講演内容について、視聴時に作成されたメモをもとに整理したものです。録音データや公式の文字起こしをもとにした逐語録ではありません。記事内で紹介している発言は、できるだけ趣旨を損なわないよう注意してまとめていますが、実際の言い回しや一部の数字、表現とは異なる可能性があります。講演内容の正確な表現や詳細については、SoftBank World 2026の公式配信・公式資料をご確認ください。
2026年7月14日に開催された「SoftBank World 2026」で、孫正義氏は約1時間にわたり、AIエージェント、スーパーインテリジェンス、ヒューマノイド、データセンター、エネルギー、医療、創薬、サイバーセキュリティ、そして経営者の責任まで、極めて広いテーマを語った。
そこで示された数字は、世界GDPの20%、AIエージェント100兆個、ヒューマノイド10億体、3テラワット、クエッタフロップス、年間5兆ドルなど、どれも途方もないものだった。
「15年後を本気で描き、そこから逆算して今日を決める。」
僕が講演全体から受け取った中心メッセージは、まさにこれだった。単なるAI技術の紹介ではない。未来を数字と期限で描き、そこへ向かって今日の行動を変える覚悟を問う講演だったように思う。
第1部 孫正義氏が描く「2040年のAI革命」
経営者にとって一番大切なのは、ビジョンと戦略
講演の冒頭、孫さんが強く語ったのは、経営者にとって最も大切なものは「ビジョンと戦略」だということだった。
「ビジョンとは、調和や和のような言葉ではない。具体的で、期限があり、数字があるものだ。」
「すごい会社にする」「もっと成長する」「AIを活用する」といった形容詞だけでは、組織を動かすビジョンにはならない。いつまでに、どこまで進み、売上や利益、シェアをどの数字まで高めるのか。そこまで明確にして初めて、今日何をするべきかが決まる。
孫さんは、多少の誤差があっても構わないから、期限と数値を置くことが重要だという趣旨で語っていた。未来を曖昧な理想として眺めるのではなく、具体的な設計図として扱う。その姿勢が、講演の最後まで一貫していた。
この考え方は経営だけに限らない。資格の勉強、創作、ブログ、仕事、人生設計でも同じだと思う。「いつか」ではなく、期限と数字を置くことで、初めて今日の行動が決まる。
インターネット革命の「最初の20年」で勝負は決まった
続いて孫さんは、約30年前のインターネット革命を振り返った。当時は「インターネットにはビジネスモデルがない」「本当に収益になるのか」と言われていた。しかし現在、世界をけん引しているのは、インターネットを本業として成長した企業である。
「最初の20年で勝負は決まっている。最初の20年間で自分の畑のトップを取れなかった会社は、その後もトップを取れていない。」
もちろん例外はあるだろう。それでも、産業革命の初期にどれだけ本気で投資し、挑戦し、地位を築いたかが、その後の長期的な競争力を決めるという指摘には重みがある。
孫さん自身には、インターネット革命で日本が世界の主役を取れなかったことへの強い悔いがある。その過去を繰り返さないために、AIでは最初から世界規模で、特にアメリカを中心に勝負すべきだという考えを示していた。
2040年までの15年間が、AI革命の勝負期間
「AIが始まって約5年。これから2040年までの15年間が大切です。」
インターネット革命の最初の20年になぞらえ、AI革命も2040年までが決定的な期間になるという見立てだ。孫さんが見ているのは、「AIを導入するかどうか」という段階ではない。AIを前提に、産業と社会そのものが組み替わる未来である。
15年という時間は、長いようで短い。巨大なデータセンター、半導体供給網、発電設備、通信網、ロボット産業を作るには、鉄道や高速道路と同じように長い準備期間が必要になる。2040年になってから動き始めても間に合わない。だから、今から具体的な規模を計算しなければならないという話だった。
世界GDPの20%をAIスーパーインテリジェンスが担う
「AIスーパーインテリジェンスは、人類史上最大の産業になる。」
孫さんが示した具体的な数字は、世界GDPの約20%だった。視聴時のメモでは、その規模は約7000兆円と語られていた。
残りの80%では、15年後も人はハンバーガーやうどんを食べ、週末には公園へ行く。生活のすべてがAIに入れ替わるわけではない。それでも、AIが担う20%は、利益率や株式の時価総額という観点では、GDP比以上の圧倒的な存在感を持つようになるという。
孫さんは、インターネット革命が最初に直接置き換えた市場は、広告など世界GDPの1%程度にすぎなかったという趣旨で比較した。それでも、インターネット企業は株式市場の中心になった。AIが20%を担うなら、その衝撃は比較にならない。
ここで重要なのは、20%という数字を正確に当てることだけではない。どのくらいの市場が生まれ、その収益を支えるためにどの規模の人、物、金、電力、半導体が必要になるのかを、一つの経営モデルとして考える姿勢だ。
AIエージェントは100兆個の時代へ
「AIエージェントは100兆個クラスまで広がる。」
100兆個という数字は、あまりにも大きく、すぐには実感できない。孫さんは、一人の社員が日々繰り返している10個、100個というルーティンワークに置き換えて説明した。メール、資料作成、調査、報告、調整、確認など、人間が何度も繰り返している仕事を、それぞれのAIエージェントが担う。
一人の人間が1000の仕事を持ち、絶え間なく動き続けることはできない。しかしAIエージェントなら、複数のエージェント同士が情報を交換し、自ら判断し、自らコミュニケーションを取りながら24時間動ける。
「人間中心の世界から、AIエージェント中心の世界になる。世の中の景色が完全に変わる。」
人間が一つひとつプログラムし、命令する世界から、エージェントが自律的に判断し、ほかのエージェントと協調して仕事を進める世界へ移る。ホワイトカラーの仕事の主役そのものが変わる可能性を、孫さんは語っていた。
僕はこの話を聞きながら、「AIが人間の代わりになる」というより、一人の人間が何十、何百もの知的な分身を持つ世界を想像した。質問に答えるだけだったAIが、調べ、考え、まとめ、実行し、別のAIと連携する存在へ変わり始めている。
「朝から晩までAIを使う」から見える未来
孫さんは、自身のAIとの向き合い方について、朝起きてから眠る直前まで、日常的にAIエージェントへ触れているという趣旨の話をしていた。
「僕は朝から晩までAIを使っている。朝起きてから、寝る直前まで触れている。」
AIをニュースで眺める人と、毎日実際に使いながら試行錯誤する人とでは、見える未来が違う。孫さんがAIの可能性を強い言葉で語る背景には、自ら利用者としてAIに触れ続けている実感があるのだろう。
僕自身も、文章、企画、音楽制作、学習、日々の情報整理など、さまざまな場面で複数のAIを使っている。以前は「AIで何ができるのか」を試していた。今は、「AIとどう一緒に進めるか」を考える時間が増えた。
第2部 ヒューマノイド、データセンター、エネルギーの未来
AIが身体を持ち、物理世界で動き始める
講演は、デジタル空間で動くAIエージェントの話から、現実世界で働くヒューマノイドへと進んだ。
これまでは、人間があらかじめプログラムした手順を、機械がそのまま実行してきた。しかしこれからは、AIロボット自身が周囲の状況を理解し、自ら判断し、物理世界で行動するようになる。
工場、物流、建設、介護、家庭。変化は、画面の中だけでは終わらない。
孫さんは、将来、10億体規模のヒューマノイドが動く可能性を示した。人間のように眠る必要がなく、24時間動き続けられることを考えれば、それだけでも人間の労働力に換算して数十億人規模に相当する。
さらに、1体のヒューマノイドが、より緻密に、より賢く、人間数人分、将来的には10人分に近い仕事をこなせるようになれば、その働きは100億人規模に達する可能性があるという。
「ホワイトカラーでは100兆個のAIエージェントが主役になり、物理世界ではヒューマノイドが主役になる。」
孫さんが語っていたのは、単にロボットの数が増える未来ではない。
知的労働ではAIエージェントが中心となり、現実の作業ではヒューマノイドが中心になる。つまり、仕事の主役そのものが変わるという話だった。
そして、ここでも孫さんが重視していたのは、未来を曖昧に語ることではなかった。
10億体なのか。
100億人分の労働力なのか。
どれだけの計算能力が必要なのか。
どれだけのデータチップと電力が必要なのか。
多少の誤差があっても、期限と数字を置き、どこまでの規模になるのかを具体的に考える。それがビジョンだという。
もちろん、10億体や100億人規模という数字が、そのまま実現するかは分からない。
それでも、孫さんが問いかけていたのは、未来を正確に当てられるかどうかではない。
その未来を、どれだけ具体的に考え、どれだけの確信を持って、人生や資金をかけられるのか。
そこまで考えて初めて、経営者のビジョンになるということなのだと思う。
そして、その膨大なAIエージェントとヒューマノイドを動かすには、巨大なデータセンター、半導体、データチップ、通信網、そして電力が必要になる。
話はここから、3テラワットという途方もないインフラの規模へとつながっていく。
AIを支えるのは、膨大なデータセンター
100兆個のAIエージェントと、現実世界で働く大量のヒューマノイドを動かすには、途方もない計算能力が必要になる。その土台となるのが、半導体、データチップ、通信網、データセンター、そして電力だ。
孫さんは、AIの未来を語るのであれば、ソフトウェアの進化だけではなく、それを支えるインフラの規模まで明確に言わなければならないと訴えた。どれほどの確信を持って数字を示し、人生と資金をかけられるのか。それがビジョンだという。
「2040年には、データセンターだけで約3テラワットの電力が必要になる。」
視聴時のメモでは、これは現在の世界全体の発電規模の約1.8倍に相当するという説明だった。AIの計算基盤は、人間のように夜になれば眠るわけではない。24時間365日、休まずに頭脳を回し続け、熱を出し、電力を使い続ける。
しかも、3テラワットは主にデータセンター側の試算だという。現実世界でヒューマノイドやロボットが大量に動けば、機体を動かすための電力も必要になる。そこまで含めれば、必要なエネルギーは現在の世界規模のおよそ倍近くになる可能性がある。
一見すると非現実的な数字だ。しかし孫さんは、世界の電力規模は過去20年でも約2倍になっており、これから15年で再び倍になること自体は、驚くべき想定ではないという見方を示していた。
つまり、AIは単なるソフトウェア産業ではない。半導体を作り、巨大なデータセンターを建設し、高速通信網を整備し、安定した電力を確保し、発生する熱を冷却する。AI革命とは、巨大な物理インフラを同時に構築する産業革命でもある。
当面は天然ガス、将来はフュージョンへ
莫大な電力を何で賄うのか。孫さんは、現時点での現実的な選択肢として天然ガス発電を挙げた。ただし、毎年1テラワット規模で電力需要が増えるような世界を、炭素に依存したまま支えるのは危険だという問題意識も示した。
長期的な本命として孫さんが期待を示したのが、「フュージョン」と呼んでいた次世代エネルギーである。講演では、水を原材料とし、クリーンで、安全性が高く、ウランに依存しないという趣旨の説明があった。文脈からは核融合を指していると考えられるが、この記事は逐語録ではないため、正確な表現については公式配信をご確認いただきたい。
孫さんは、フュージョンの時代が到来すれば、炭素排出や地球温暖化の問題が大きく改善される可能性があり、その技術開発にもAIが大きく貢献しているという趣旨で語った。
AIが必要とするエネルギーを、AI自身が研究開発の面で支える。AI革命が半導体や通信だけでなく、発電、資源、気候変動対策まで巻き込むことがよく分かる話だった。
イーロン・マスク氏が太陽光エネルギーの活用を語る一方で、孫さんは、フュージョンによって必要なエネルギーを供給できるのではないか、という見方を示していた。
エクサ、ゼタ、ヨタ、ロナ、そしてクエッタ
半導体と計算能力の話では、NVIDIAの次世代GPUを例に、普段ほとんど耳にしない単位が次々と登場した。エクサは10の18乗、その1000倍がゼタ、さらにヨタ、ロナ、クエッタと続く。
孫さんは会場へ、エクサの次を知っているか、ゼタの次を知っているかと問いかけ、「知っている人がいたら腕時計をあげる」と冗談を交えた。ヨタを知っている人は相当な専門家であり、その先のロナやクエッタまで考えている人はほとんどいないという話だった。
「2040年のデータセンターは、クエッタフロップスの演算能力で考える世界になる。」
大切なのは単位を暗記することではない。15年後にAIがどれほど賢くなり、何を実行できるようになるのか。その土台となる演算能力を、今から具体的に計算し始めなければ間に合わないということだ。
「鉄道や高速道路も15年かかる。コンピュートのインフラだって同じです。」
未来のモデルだけを語り、インフラを語らないのは不十分だ。発電所もデータセンターも半導体供給網も、一朝一夕には作れない。だから孫さんは、毎日真剣にその規模を考えていると繰り返した。
年間5兆ドルを投資しても、経営は成り立つのか
「AIインフラには、年間5兆ドル、約800兆円が必要になる。」
普通に聞けば、そんな投資を毎年続けて経営が成り立つのかと思う。孫さんは自らその問いを投げかけ、「成り立つ」と答えた。
世界GDPの20%、約7000兆円の売上規模を持つ産業が生まれるなら、年間800兆円を投じても大きな利益が残る。孫さんは、AIがバブルかどうかを、雰囲気や株価ではなく、最終的にどれだけの収益を生み出せるかで考えていた。
「AIはバブルではない。収益を生むかどうかで考えるべきだ。」
ビジョンを語るには、市場規模だけでなく、その根源となる収益、必要な人・物・金、半導体、電力、設備投資まで、トータルで包含して考えなければならない。予測は多少外れるかもしれない。それでも、毎日考え続け、自分なりの数字を持ち、そこへ真剣に資金を投じる。その覚悟を孫さんは「ALL IN」と表現していた。
「たまたま成功した」のではなく、毎日考えている
Yahoo!やアリババへの投資について、「たまたま当たっただけ」「運が良かっただけ」と言われることがあるという。孫さんは、少し笑いながら反論した。
「たまたまだったら、ずっと続きますか。僕は毎日、ずっと考えている。」
未来を正確に予言できる人はいない。それでも、誰よりも調べ、数字を置き、何度も考え続けることで、判断の精度は上げられる。今回の講演は、未来予測というより、未来を考え続ける執念の話でもあった。
400万年の進化を、これからの100年で超える
孫さんは、人類が二足歩行によって手を自由にし、道具を使い、文明を生み出してきた歴史を振り返った。その進化には約400万年かかった一方で、国家、産業革命、近代文明などの大きな変化は、最後の約5000年に集中しているという。
「これからの100年で、人類は400万年をはるかに超える進化をする。」
AIによる知能の拡張は、これまでの文明の進化をさらに急加速させ、労働や社会の前提を根底から変える。そのために膨大なコンピュートと3テラワット規模のエネルギーが必要になるという論理へ、話はつながっていた。
途方もない話だが、孫さんが本気でその未来に資金と人生を投じているからこそ、単なる空想ではなく「覚悟の表明」として聞こえた。
第3部 スーパーヒューマン、医療、サイバー防衛、経営者への宿題
生命を進化させた二つの仕組み
講演後半、孫さんは約40億年の生命史へ話を広げた。最初の生命はバクテリアのような存在だった。それが現在の多様な生物へ進化した根本には、たった二つの仕組みがあったという。
「自己増殖と自己進化。この二つのアルゴリズムで、生命はここまで進化した。」
そしてAIエージェントも、人間が一つずつ作る段階を越え、エージェントがエージェントを作り、互いに改善する方向へ進む。100兆個のエージェントが、クエッタ級の演算能力を背景に自己増殖と自己進化を始めれば、地球上で最も数の多い“存在”はAIエージェントになるかもしれない。
「100兆個のAIエージェントが、自己増殖し、自己進化していく。」
孫さんは、人間が地球の知性の頂点である時代が終わる可能性にも踏み込んだ。それが良いか悪いかとは別に、アメリカが止めれば中国が進め、中国が止めても別の国が進める。世界のどこかで開発が続く以上、一国だけで止めることは難しい。
だから必要なのは、拒絶するだけではなく、どう安全に共存し、人間側も進化するかを考えることだという。
人間は「スーパーヒューマン」になる
「我々人間は、AIとともにスーパーヒューマンになる。」
人類はこれまでも、自分の能力を超える道具を生み出してきた。自動車は足を延長し、飛行機は移動能力を拡張し、テレビやラジオ、通信は目と耳を拡張した。これまでは主に手足や感覚の拡張だった。これから始まるのは、頭脳そのものの拡張だという。
超知性を直接身体へつなぐことも、身にまとうことも、自分専用のAIとして使うこともできる。自分の知識、経験、判断、試行錯誤を学ばせたエージェントを育てれば、自分の分身が24時間、夜中も土日も働くようになる。さらにヒューマノイドを自分の手足として動かせば、身体と頭脳の両方が拡張される。
孫さんは、AIを嫌い、進化そのものを拒絶することは、自動車や飛行機を拒むことに近いという強い表現も使った。賛否はあるだろうが、時代の変化を早く受け入れ、自分のエージェントを育てる人ほど可能性を広げられる、という主張だった。
「人間は、自分が本当にやりたいこと、感動することをやればいい。」
テニスをする。絵を描く。家族と過ごす。自分が本当に興奮し、心が動くことへ時間を使う。そのために、繰り返しの仕事をAIとロボットへ任せる。孫さんが描いたスーパーヒューマンの未来は、人間を排除する未来ではなく、人間の時間と可能性を広げる未来だった。
僕がAIを使う理由も、単に楽をするためではない。機械に任せられる部分を減らし、人にしかできない表現や判断に時間を使うためだ。AIには、人間らしい時間を奪うのではなく、増やす存在であってほしい。
健康寿命を延ばすAIと、命の価値
孫さんは、AIが健康寿命を予測し、治療によって命を延ばせるようになった場合の価値についても語った。もし残された健康寿命が3年だと分かり、それを10年延ばせるとしたら、その10年にいくら払うだろうか。
自分が将来稼ぐお金だけではない。家族と過ごす時間、子どもの成長、自分が感じる喜びを含めれば、財産の3割や5割を払ってでも命を延ばしたいと考える人はいるだろう。
一人ひとりの遺伝情報や身体の状態に合わせた遺伝子治療薬、パーソナライズされた薬が作れるようになれば、費用はかかっても巨大な価値が生まれる。孫さんがAIを世界GDPの20%を担う産業と見る背景には、業務効率化だけでなく、人間の生存権や健康寿命を拡張する可能性まで含まれている。
ChatGPT 5.6、同時通訳、医療、創薬、材料開発
「私は毎日、ChatGPT 5.6を使っている。部下に聞くより早い。夜中でも聞ける。」
孫さんは、現在のChatGPT 5.6が、人間の専門職を測る多くの評価で極めて高い水準に達しているという趣旨の説明をした。十分で質の高いデータを入力できれば、一般的な医師より正確な診断を支援できる可能性にも触れた。
もちろん、医療判断をAIだけへ任せてよいという意味ではない。データの質、責任の所在、専門家による確認が欠かせない。それでも、AIが専門職の補助を越え、一部では専門家を上回る能力を示し始めているという認識だった。
同時通訳の例では、自分は英語を話せても、聞きながら同時に別言語へ訳すことはできないと語り、AIによる翻訳デモを紹介した。人間なら高度な専門職にあたる同時通訳を、AIは複数の言語で実行できる。
創薬では、これまで偶然や膨大な試行錯誤に頼っていた候補物質の発見を、AIが大幅に短縮できる。さらに、電気自動車の航続距離を1.5倍に延ばすための新材料や技術の探索など、医療以外の研究開発にも応用できるという。
試験管を人間が一本ずつ振り、偶然を待つだけの研究から、AIが膨大な組み合わせを計算し、有望な候補を能動的に提示する研究へ変わる。AIがありとあらゆる産業へ浸透する理由が、具体的に見える話だった。
AIが進化すれば、サイバー攻撃も進化する
「これからはAIが攻撃手法を作り、機関銃のようにサイバー攻撃を仕掛けてくる。」
AIの力は善意にだけ使われるわけではない。これまでは人間が攻撃用のプログラムを作っていたが、これからはAIが脆弱性を探し、攻撃コードを作り、大量の攻撃を自動化する。攻撃側がAIを使うなら、防御側もAIを使わなければ追いつかない。
孫さんは、通信というライフラインを担うソフトバンクが、何十億行にも及ぶ自社のコードをAIで診断した事例を紹介した。20年以上、大きな障害を起こさないよう真剣に運用してきたシステムであっても、AIで調べた結果、約1万500件もの脆弱性が見つかったという。
「これだけ真剣に作ってきたシステムでも、これほどの穴が見つかる」。その事実は、AI時代のサイバー防衛が、もはや一部の専門部署だけの課題ではないことを示している。長年動いてきたから安全なのではない。攻撃側がAIを使う時代には、防御側もAIを使って、見えない弱点を先回りして潰していかなければならない。
「古いシステムを、木造から鉄筋へ変えるように作り直さなければならない。」
見つかった穴へ一つずつパッチを当てるだけでなく、30年前に作られたような古いプログラムを土台から作り直す。小さな補修ではなく、構造そのものを強くする必要があるという比喩だった。
さらに、大企業約63社を診断したところ、そこでも多数の脆弱性が見つかったという。視聴時のメモには「約280件」という数字も残っているが、その数字が全体を指すのか、1社あたりの規模を指すのかは明確に確認できていないため、正確な内容については公式配信をご確認いただきたい。
ソフトバンクは政府とも協議し、約1000人規模の体制を組み、重要インフラを担う約3000社を守るプロジェクトへ取り組む構想を語っていた。AIは便利なサービスの話にとどまらず、国家と社会の安全保障に直結する技術になっている。
ROAではなく「Return on AI」
講演は、再び経営の話へ戻った。
企業経営では、一般に「ROA」という指標が使われる。ROAは「Return on Assets」の略で、会社が保有する資産を使って、どれだけ利益を生み出したかを見る考え方だ。
しかし孫さんは、これから重要になるのは、資産全体に対する収益性だけではなく、AIへの投資がどれだけ成果を生んだかを測ることだという趣旨で語った。
「これからは、Return on AIを考える。」
つまり、AIにかけた費用に対して、どれだけ売上や利益が増えたのか。どれだけコストを削減できたのか。どれだけ新しい事業やサービスを生み出せたのか。それを具体的に測るという考え方だ。
たとえば、AIに10億円を投資したなら、その10億円が会社にどれだけの成果をもたらしたのかを見る。AIを導入したという事実だけで満足するのではなく、投資に対する効果を明確にする必要がある。
一方で、孫さんは、すぐに利益が出なければ失敗だと言っていたわけではない。
「最初の数年間は練習の時代がある。少しずつ芽が出てくる。」
社員がAIの使い方を学び、仕事の流れを変え、失敗を重ねながら活用方法を見つけるには時間がかかる。およそ3年ほどの時間軸で、投資額を上回る成果が期待できると判断したなら、全部門の幹部が本気で取り組むべきだという話だった。
短期的には試行錯誤を認める。
しかし中期的には、売上、利益、コスト削減、新規事業など、具体的な数字で成果を測る。
AIへの熱狂だけでもなく、目先の採算だけでもない。AIを経営投資として捉える、非常に現実的な考え方だと感じた。
社長の仕事は「AIだ」と叫び続けること
「我が社はAIで変わるんだ、と社長が叫び続ける。それが一番大切な仕事だ。」
CEOがすべての細かなプロジェクトを確認することはできない。だからこそ、トップがビジョンと戦略を示し、「自分たちはAIで進化する20%の側へ行く」と社員を励まし続けなければならない。
AI担当部署を作り、一部の若い社員へ任せて終わりでは、会社全体は変わらない。社員に対して、AIエージェント化したのか、試したのか、どこまで進んだのかを毎日問い続ける。半信半疑ではなく、会社と自分の人生を入れ替えるほどの決意で取り組む。それが社長の宿題だという、非常に強いメッセージだった。
自分の得意分野をAI化し、「自分専用のエージェント」を育てる
「自分の業態や業種について深い経験と知識を持っている。その得意分野を、とことんAI化する。」
孫さんがここで語っていたのは、単に「AIを使いましょう」という話ではない。
製造業、医療、小売、教育、行政。どの分野にも、長年積み重ねてきた現場の知識、経験、判断の勘所がある。一般的なAIの知識だけで競うのではなく、自分や自社が最もよく知っている領域にAIを組み合わせることで、大きな強みになるという考え方だ。
そして、その先にあるのが、自分専用にパーソナライズされたAIエージェントを育てることだった。
孫さんは、人類がこれまで生み出してきた道具について、自動車や飛行機は足の延長であり、テレビやラジオは目や耳の延長だったという趣旨で振り返った。これまでは主に、身体や感覚を拡張してきた。
しかし、これから始まるのは頭脳の拡張だという。
「これからは、頭脳の進化が始まる。」
AIを直接身体につなぐことも、身にまとうこともできるかもしれない。そして最も身近な形として、自分の考え方、経験、知識、判断、試行錯誤を学ばせた、自分専用のAIエージェントを持つようになる。
そのエージェントは、単なる一般的なチャットAIではない。
自分が過去に何を経験したのか。
どのような判断をしてきたのか。
何を大切にしているのか。
どの分野を得意としているのか。
そうした自分自身の蓄積を学びながら、少しずつ自分に合った分身へ成長していく。
「自分のエージェントを育てる。自分の分身が、24時間せっせと仕事をする。」
夜中でも、土曜日でも、日曜日でも、自分の代わりに調べ、考え、整理し、仕事を進める。さらに、その知性をヒューマノイドへつなげれば、自分の頭脳だけでなく、身体の働きまで拡張できるという未来像だった。
孫さんは、AIを拒絶することについて、自動車や飛行機を拒むのと同じようなものだという強い表現も使った。進化を恐れて自分を閉じ込めるのではなく、時代の変化を早く受け入れ、自分自身をAIエージェント化していく人ほど、能力を大きく広げられるという考え方だ。
つまり重要なのは、誰もが同じAIを同じように使うことではない。
自分の専門性をAIに学ばせ、自分専用のエージェントを育てること。
それが、孫さんの語るスーパーヒューマンへの具体的な一歩なのだと思う。
AIにすべてを任せて、自分が何もしなくなるのではない。繰り返しの仕事や整理作業を自分のエージェントに任せ、人間は、本当にやりたいことへ時間を使う。
テニスをする。
絵を描く。
音楽を作る。
家族と過ごす。
心が動くこと、感動すること、興奮することに集中する。
孫さんが描いていたのは、AIによって人間らしさを失う未来ではなく、自分専用のエージェントを育てることで、人間らしく生きる時間を増やす未来だった。
「AIに仕事を奪われる」のではない
「AIに仕事を奪われるのではない。AIを使う企業が、AIを使わない企業の仕事を奪う。」
今回の講演で、最も強く心に残った言葉の一つだ。AIが突然すべての仕事を消すというより、AIを使って速く、安く、高品質な価値を提供する企業へ、顧客や仕事が移っていく。
本当に恐れるべきなのは、AIそのものではなく、変化しないことなのかもしれない。個人でも、AIを使う人と使わない人では、同じ1時間で生み出せる量や質に差が開いていく可能性がある。
AIは脅威ではなく、逆転のチャンス
「AIが来たら悲しい、ではない。AIでチャンスだ。これで逆転できるぞ、と思えばいい。」
新しい技術が普及する時、過去の成功体験が必ずしも強みになるとは限らない。大企業だけでなく、小さな会社や個人でも、学び、試し、素早く取り入れることで追いつける。
AIを味方につけ、本人がスーパーヒューマンへ、会社がスーパー企業へ進化する。AI革命は恐れる対象であると同時に、これまでできなかったことを実現し、立場を逆転させる機会でもある。
最後に戻ったのは「数字と期限」
「ビジョンとは、数字と期限です。」
「15年後からさかのぼって、今できることを考える。」
講演の最後、話は冒頭へ戻った。15年後、自分の業界でAIが何を担い、自分の会社はどの位置にいるのか。売上、利益、国内順位、世界順位を具体的に描き、そこから現在へ逆算する。
「まるでタイムマシンに乗って未来を見てきたよう、触れてきたように語る。そのために、毎日調べ、考え続ける。魔法ではない。」
預言者になる必要はない。誰よりも調べ、考え続け、自分なりの数字と期限を持つ。孫さんは、将来の売上や利益を明確に言える経営者は多くないと語った。経営者が5年程度で交代し、「15年後は自分ではない」と考えるなら、それは無責任だという厳しい指摘だった。
15年後に日本一、世界一になる。そのくらいの気概がない人が社長になれば、社員がかわいそうだ。無難で慎ましいだけの社長では、急速に変化する時代のリーダーにはなれない。「自分は行く。ついてこい。一番になる」と示す力強さが必要であり、日本が30年間元気を失った背景には、その力強さの不足があるという。
スーパーヒューマンの時代が来れば、常識は大きく変わる。従来の仕事や企業が取って代わられる可能性もある。その変化を前提として、今から準備することが大切だ。
僕が今回の講演から受け取ったこと
世界GDPの20%。100兆個のAIエージェント。10億体規模のヒューマノイド。3テラワットの電力。クエッタフロップス。年間5兆ドルの投資。驚くような数字が次々に登場した。
正直に言えば、すべてが予測どおりになるかは分からない。15年後に振り返れば、大きく外れている数字もあるだろう。しかし、今回の講演で本当に重要なのは、数字を正確に当てることではないと思う。
「15年後を本気で考えているか。そこから逆算して、今日の行動を変えているか。」
AIをただ恐れるのでも、無条件に信じるのでもない。実際に触れ、自分の目で確かめ、考え続けることが大切だ。仕事、企業、教育、医療、エネルギー、セキュリティ、そして人間の生き方まで、AIはすべてに関わる土台になろうとしている。
AIを使う側か、使わない側か。変化する側か、変化を待つ側か。未来を考える側か、目の前だけを見る側か。今回の講演は、僕たち一人ひとりにその選択を問いかけていたように感じる。
孫さんは最後に、「しつこいぞ。大概にせい。あんたの思い込みは聞き飽きた。と思うかもしれませんが、僕は本音を申し上げた。少しでもお役に立てればと思います」といった趣旨で講演を締めくくった。大げさだと思われる可能性があっても、自分が本気で信じる未来を語り、行動する。その姿勢自体が、講演の最大のメッセージだったのかもしれない。
15年後から逆算して、今何を始めるのか。僕自身も、AIをもっと使い、もっと学び、もっと挑戦したい。そしていつか、「あの日が一つの転機だった」と振り返れるようにしたいと思う。
愛と感謝を胸に。バイバイ。
- ✍️ChatGPTに健康情報をつなぐ時代へ|便利さの前に知っておきたい5つのこと

- ✍️ChatGPT Workが無限ロードで開かない|Mac版Codexで試した全対処と「何もせず突然直った」実録

- ✍️ChatGPTの仕事利用80万件超をOpenAIが分析|43.5%が「職種の外側」のタスク

- ✍️Claude Fable 5で何が変わる?ChatGPT・Work・Codexの違いと「AIに頼む」「仕組みにする」の境界

- ✍️AIの次のボトルネックは「入力」だ|人前で使える小声マイクと、声を出さずにAIへ伝える未来

- ✍️実際に使って驚いた。CodexをPCに迎えた日、AIエージェントで人生がまた変わった

- ✍️号外【速報・詳細まとめ】SoftBank World 2026|孫正義氏が語った「AI革命の本質」と15年後の未来

- ✍️SEOはもう古い?ChatGPT自身に聞いてみた|AIから引用される記事・選ばれる記事の共通点とは

- ✍️ChatGPT Workとは何か|GPT-5.6で始まる「AIと一緒に働く時代」をわかりやすく解説

- ✍️ChatGPTはもう古い?Gemini・Claudeとの違いを徹底比較【2026年版】

- ✍️AXとは何か?孫正義氏の言葉で変わった僕のAIとの向き合い方|日本の未来を考える

- ✍️AIは画面の中から現実世界へ|フィジカルAIが変えるこれからの暮らし

- ✍️AIは国家レベルの技術へ|OpenAI「GPT-5.6限定プレビュー」が示す新時代

- ✍️AIコピペ提出経験36%|大学生の課題から見える学び方の大転換

- ✍️なぜAIを使い倒す人ほど、全部は語らないのか。AI時代に生まれ始めた「新しい能力」と価値観

- ✍️OpenAIの「ChatGPTスマホ」は本当に出るのか|アプリを開く時代から、AIに任せる時代へ

- ✍️Roblox Studio導入編|遊ぶ側から、ゲームを作る側へ

- ✍️AIは“人類の知識という燃料”を使い切ったのか|真実の揺らぎと、人間の役割が変わる未来を考える

- ✍️調べるという行動が変わった|検索からAIへ、そして情報発信のこれから

- ✍️AIが裁判や政治の現場に入り始めた時代に、僕たちは何を信じて判断するのか

- ✍️ChatGPTとGemini、結局どっちがいいのか|主役AIをどう選ぶかを本気で整理してみる

- ✍️AI時代にこそ、自分の言葉を手放さないという松永流AIリテラシー

- ✍️AI時代だからこそ、自分の言葉で書く力を取り戻す|思考力・構成力と論述・論文に効く文章術

- ✍️ChatGPTかGeminiか論争を読み解く|優劣より用途と課金設計

- XcodeのSource Control入門|CommitとStashで“壊れても戻れる”開発にする

- ✍️Codexとは何か|ChatGPTとの違いは「相談相手」か「作業員」か

- ✍️ChatGPTで終わらない|“作れる側”に回るアプリ開発の現実

- ✍️AIエージェントは「自分を増やす」道具だ|一人を“仮想組織”にする分業設計の考え方

- ✍️人間お断りのSNS「モルトブック」|AIエージェント同士が語り出した“設計の盲点”

- ✍️2026年、ITの次に来る生活者イノベーション7選|AIエージェント・パスキー・オンデバイスAIで「操作が消える」
