おはよう。今日は、色覚異常について書いてみたい。
色覚異常。色弱。色盲。色覚特性。色覚多様性。
呼び方はいろいろある。時代によっても変わってきたし、医学の世界で使われる言葉と、社会の中で使いたい言葉にも少し違いがある。
僕自身は、中学生の頃、学校で色覚検査を受けて、色覚異常だと判断された。
あれは、かなり強烈な思い出だった。
みんなが当たり前のように見えているものが、自分には見えない。
みんながすっと数字を読んだり、線をたどったりしている中で、自分だけが違う数字や道筋を指でたどる。
「あれ、自分はみんなと違うんだ」
その感覚は、子ども心にはけっこうびっくりした。
ただ、正直に言うと、その時点ではまだ、強いショックというよりも、
「俺は人とは違う個性を持っているんだ」
みたいな、少し得意げな気持ちもあった。
別に、目が見えないわけじゃない。日常生活の大半は普通に送れる。だからこそ、余計に説明しにくい。
でも、ある場面になると、突然、自分だけが見えていない世界に放り込まれる。
僕にとって色覚異常は、単なる検査結果ではなかった。
高校生、大学生と成長するにつれ、それは自分の夢や進路、人生の選択にまで影響する、かなり大きなテーマだったことに気づいていく。
◾️「異常」と言われるけど、見え方の違いでもある
まず、色覚異常という言葉について整理しておきたい。
医学的には、今でも「色覚異常」という言葉は使われる。眼科で検査をして、一般的な色覚と違うタイプの見え方をする場合に、そう診断されることがある。
ただ、社会の中では、最近は少しずつ言い方が変わってきている。
「正常」と「異常」と分けるよりも、人には色の見え方にタイプがあると考える。
カラーユニバーサルデザインの分野では、一般的な色覚をC型、赤系が見分けにくいタイプをP型、緑系が見分けにくいタイプをD型、青系が見分けにくいタイプをT型、というように、アルファベットで表す考え方もある。
この考え方は、僕はとても大事だと思う。
もちろん、現実に困る場面はある。
赤と緑、茶色と緑、紫と青、ピンクと灰色、信号や地図やグラフや配線やランプ。そういうところで、見分けにくさが出ることはある。
でも、それは「人間として劣っている」という話ではない。
色の感じ方が違う。
情報の受け取り方が違う。
だから、社会の側も色だけに頼らない設計をしていく必要がある。
僕はそこを、子どもの頃にはなかなか理解できなかった。
ただただ「自分は普通じゃないんだ」と感じた。
でも今なら思う。
あれは、僕の欠陥だけの話ではなかった。
社会の情報設計が、まだまだ一部の見え方だけを前提にしていたという話でもあった。
◾️学校の検査で感じた「みんなと違う」という痛み
学校の色覚検査の記憶は、今でも残っている。
みんなが順番に検査を受ける。
本のような検査表を見る。
数字が浮かび上がって見える人もいれば、線をたどるタイプのものもあった。
僕は、その線を指でたどるような感覚があった。
見えているようで、見えていない。
分かるようで、分からない。
みんなが簡単に答えているものが、自分には妙に難しい。
あのときの感覚は、単に「検査に引っかかった」というより、「自分がみんなと違うことを、みんなの前で知らされた」感覚に近かった。
子どもにとって、それはけっこう大きい。
大人からすれば、ただの健康診断の一項目かもしれない。
でも、子どもからすれば、自分の世界の見え方に名前をつけられる瞬間でもある。
しかも、その名前が「異常」だったりする。
これは、けっこう刺さる。
もちろん、検査そのものは大事だ。
自分の見え方を早く知ることで、進路選択や日常生活での工夫につながる。知らないまま大人になるより、知っていた方が助かる場面もある。
ただ、伝え方は本当に大事だと思う。
「あなたは異常です」ではなく、
「あなたにはこういう色の見え方の特徴があります」
「だから、こういう場面では工夫するといいです」
「でも、あなたの可能性そのものが狭くなるわけではありません」
そう伝えてもらえたら、子どもの受け止め方は全然違ったと思う。
◾️僕は、自分の不利を研究テーマにした
大学に入ってから、僕は情報科学、IT系の学科を学んだ。
そして卒業論文で、色覚異常をテーマにした。
僕が考えたのは、苦手な色を補正するソフトウェアだった。
当時の僕の発想は、自分では今でもかなり本気だったと思っている。
赤と緑が見分けにくいなら、その差をRGB上で強調する。
あるいは、自分が比較的得意な青系の情報に置き換える。
つまり、ウェブブラウザ上に「色覚補助のメガネ」のようなフィルターを作るイメージだった。
画面上の情報をキャプチャして、色を変換する。
苦手な色を、見分けやすい形に補正する。
そうすれば、僕のような人間でも、もっと情報を読み取りやすくなるのではないか。
今でこそ、スマホのアクセシビリティ機能や画像補正、ARによる色認識支援などは当たり前のように語られるようになっている。
でも、当時の僕にとっては、それは自分の人生から絞り出した切実なアイデアだった。
自分が困った。
だから、自分で解決する。
それを技術で形にする。
僕は、自分の弱点を、研究テーマに変えようとした。
教授陣も驚いてくれた。
NHKから取材を受けたこともあった。
僕としては、本当に未来を切り開くつもりだった。
◾️でも、論文は没になった
ただ、その卒業論文は、最終的にはうまくいかなかった。
発想そのものや、開発したものの熱意は評価された。
でも、ソフトフェアの一部のソースコードや文献の扱い、引用の仕方などに問題があると判断された。
今振り返れば、たしかに論文としての作法や、引用、参考文献、先行研究との関係づけについて、もっと丁寧に指導を受けていれば違った結果になったかもしれない。
技術的な問題だったと思う。
研究倫理や引用のルールについて、もっときちんと学ぶ必要があったのだと思う。
でも、当時の僕は不服だった。
だって、あれは僕の人生そのものから出てきた研究だったからだ。
自分の色覚異常。
自分の不利。
自分の悔しさ。
自分が見えなかったもの。
自分が諦めさせられそうになった夢。
それを何とか乗り越えようとして、必死に考えて、ソフトウェアにした。
だから、もう少しあの熱意ごと評価してほしかったという気持ちは、今でもどこかに残っている。
ただ一方で、その熱意と技術はちゃんと見てくれた人もいた。
そのまま大学で、生徒を教える形で働かないかと声をかけてもらったこともある。
僕は結局、国家公務員の道を選んだ。
でも、あのときの研究は、僕の中では消えていない。
むしろ今思えば、あれは僕が初めて「自分の困りごとを社会の課題として捉えた経験」だったのかもしれない。
◾️宇宙飛行士、パイロット、警察、自衛官。色覚で諦めた夢
僕には、なりたかった仕事がいくつもあった。
宇宙飛行士になりたかった。
パイロットにも憧れた。
警察官や防衛庁、自衛官のような仕事にも関心があった。
でも、色覚の問題があった。
もちろん、これらの仕事には安全上の理由がある。
航空、警察、防衛、交通、危険物、緊急対応。色の識別が命に関わる場面もある。
だから、身体検査や色覚基準が存在すること自体は、単純に差別だとは言い切れない。
でも、当事者としては、やっぱり悔しい。
学科試験なら頑張れる。
体力も鍛えられる。
面接も準備できる。
でも、目の見え方だけは、自分の努力ではどうにもならない部分がある。
僕は、それでも諦めきれなかった。
大学生の頃、広島から三重の方まで、色覚検査を通過するための特殊なフィルター眼鏡を借りに行った記憶がある。
たしか「ワールドマンセル」だったか、そういう会社の名前の検査やフィルターに関係する商品だったと思う。七色のような、少しギラギラした特殊な眼鏡だった。
レンタルだった気がする。
しかも数万円くらいしたと思う。
学生の自分には高かった。
それでも、アルバイトして、自分で新幹線を予約して、旅費を払って、そこまで行った。
なりたかったからだ。
どうしても、その身体検査を越えたかった。
色覚で夢を閉ざされたくなかった。
検査の本を大学の図書館で何度も見て、その眼鏡で練習した。
その眼鏡を通すと、みんなと同じように線をたどれるような気がした。
本番の検査会場でも、その眼鏡をかけた。
でも、普通の検査の場で、急にそんなギラギラした特殊な眼鏡をかける。
検査員も驚いていた。周りの人も見ていた。何かを書かれていた気がする。
結局、落ちた。
学科試験は得意だった。
体力検査も問題なかった。
だから、自分では、あの色覚検査で落ちたのだと思っている。
あのときは、本当に悔しかった。
目のせいで、なりたい仕事になれない。
努力しても、突破できない壁がある。
それは、若い自分にはかなりきつかった。
◾️それでも、夢を考え抜いたことは無駄じゃなかった
でも、今になって思う。
あのとき、宇宙飛行士になりたい、パイロットになりたい、警察や自衛官になりたいと本気で考えたことは、無駄ではなかった。
たしかに、その職業そのものにはなれなかった。
悔しかったし、簡単には受け入れられなかった。
でも、一生懸命考えた。
自分はなぜ、その仕事に就きたかったのか。
制服に憧れていたのか。
国や社会を守りたかったのか。
困っている人を助けたかったのか。
人の役に立ちたかったのか。
そうやって考えていくと、職業名の奥に、自分の本当の動機が見えてきた。
僕は、人を助けたかったのだと思う。
人の役に立ちたかった。
誰かの人生を支える仕事がしたかった。
だから僕は、形を変えて、国家公務員を選んだ。
宇宙飛行士ではない。
パイロットでもない。
警察官でも自衛官でもない。
でも、社会の中で人の役に立つ。
困っている人の力になる。
働くことや暮らすことを支える。
形は違っても、自分の中の動機はつながっていた。
今ならそう思える。
夢は、職業名だけではない。
夢の奥には、必ず価値観がある。
その価値観まで掘り下げると、道は一つではなくなる。
◾️昨日、高校生たちに話したこと
昨日、僕はとある学校の高校生たちに、働くことや進路について話をする機会があった。
みんな、それぞれ夢を発表してくれた。
本当にキラキラしていた。純粋で、可愛かった。
僕の息子と同じくらいの年齢の子たちだ。
そう思うと、胸がいっぱいになった。
僕自身も今年45歳になる。
でも、高校2年生くらいだった頃の記憶は、まだかなり鮮明に残っている。
進路で悩んでいたこと。
夢を見ていたこと。
自分の限界にぶつかったこと。
悔しかったこと。
だから、昨日の生徒たちを見ていると、昔の自分を見るような気持ちにもなった。
僕はそこで、こんな話をした。
「好きなことを、簡単に諦めないでほしい」
もちろん、現実は大事だ。
働くためには、生活リズムも必要だし、社会性も必要だし、ソーシャルスキルも必要だ。
収入や生活の安定も大事だ。
親や先生が現実的な話をするのも、本人を守るためだ。
でも、それだけで終わってほしくない。
特性がある。
制限がある。
苦手がある。
できないことがある。
それでも、自分の好きなことを見つめてほしい。
なぜそれが好きなのかを考えてほしい。
その奥にある、自分の本当の動機を見つけてほしい。
例えば、電車が好きなら、運転士だけが道ではない。
人を運ぶ仕組みが好きなのか、車両が好きなのか、時刻表が好きなのか、接客が好きなのか、安全を守ることが好きなのか。
そこまで掘り下げると、関われる仕事や活動は広がっていく。
動物が好きなら、獣医だけが道ではない。
世話をする、清掃をする、記録をする、発信する、保護活動に関わる、商品を扱う。いろんな関わり方がある。
夢を、表面の職業名だけで終わらせないこと。
その奥にある「自分は何に心が動くのか」を大事にすること。
僕は、そんな話をした。
先生たちも、生徒たちも喜んでくれた。
僕にとっても、すごく大事な時間だった。
◾️今は、昔よりも選択肢が増えている
昔に比べると、今は情報が圧倒的に増えた。
僕が学生だった頃は、色覚異常について調べるのも大変だった。
検査方法、補助眼鏡、職業制限、研究、ソフトウェア。
今みたいにスマホで検索すればすぐに出てくる時代ではなかった。
でも今は違う。
色覚についての情報も増えた。
カラーユニバーサルデザインという考え方も広がってきた。
スマホやパソコンには色補正機能がある。
画像を変換したり、色名を判定したり、ARで補助したりする技術も出てきている。
僕が大学時代に考えていた「ウェブブラウザ上の色覚補助メガネ」のような発想も、今ではかなり現実的な技術になっている。
もちろん、色覚補助メガネやアプリが、色覚を完全に治すわけではない。
ここは誤解してはいけない。
先天的な色覚特性は、基本的には目の錐体細胞や遺伝的な要素に関わるもので、眼鏡をかけたら一般色覚と同じになる、という単純なものではない。
補助眼鏡も、特定の波長を調整して色の差を感じやすくするものであって、万能ではない。人によって効果も違う。
でも、困りごとを減らす技術は確実に進んでいる。
色を別の色に置き換える。
コントラストを強調する。
形や模様や文字を加える。
アプリで色名を読む。
デザインの段階で、色だけに頼らない情報設計にする。
そういう工夫は、これからもっと当たり前になっていくと思う。
そして、それは色覚異常の人だけのためではない。
高齢になれば、誰でも見え方は変わる。
暗い場所、眩しい場所、印刷の質、スマホの画面、疲労、病気。
色が見えにくい状況は、誰にでも起こる。
だから、カラーユニバーサルデザインは、特別な誰かへの配慮ではなく、みんなにとって分かりやすい社会を作る考え方なのだと思う。
◾️色だけに頼らない社会へ
色覚異常の話をすると、どうしても「本人がどう克服するか」という話になりやすい。
でも、本当はそれだけではない。
社会の側が、色だけに頼りすぎないことも大事だ。これは、僕が学生時代からずっと言われている。
例えば、赤と緑だけで区別するグラフ。
色だけで状態を示すランプ。
「赤いボタンを押してください」とだけ書いてある案内。
地図で色分けだけして、文字や模様がないもの。
学校の教材や職場の資料で、色の違いだけに意味を持たせているもの。
これらは、色覚特性のある人には分かりにくいことがある。
でも、少し工夫すれば改善できる。
色に加えて、文字を入れる。
形を変える。
線の種類を変える。
明暗差をつける。
凡例を分かりやすくする。
赤と緑の組み合わせを避ける。
重要情報を色だけで伝えない。
たったそれだけで、情報の受け取りやすさは大きく変わる。
これは、優しさだけの話ではない。
情報伝達の精度の話でもある。
安全の話でもある。
仕事の効率の話でもある。
色覚異常の人に分かりやすい資料は、多くの場合、一般の人にも分かりやすい。
だから僕は、色覚の話は、単なる個人のハンディキャップの話ではなく、社会設計の話でもあると思っている。
◾️「なれなかった仕事」が、今の自分を作った
僕は、色覚のせいで諦めた夢がある。
宇宙飛行士。
パイロット。
警察官。
自衛官。
その名前だけを並べると、「なれなかった仕事」のリストに見える。
でも、今は少し違う見方をしている。
なれなかった仕事たちは、僕に問いをくれた。
自分は何をしたいのか。
なぜそれをしたいのか。
何に心が動くのか。
何なら、形を変えても続けられるのか。
そして、僕は今、行政の仕事をしている。
働く人、事業所、障害のある人、外国人、若者、地域、いろんな人の人生や仕事に関わっている。
形は違う。
でも、人の役に立ちたいという動機は、昔から変わっていない。
もし、色覚異常がなかったら、僕は別の道を進んでいたかもしれない。
それはそれで、きっと面白い人生だったと思う。
でも、色覚異常があったからこそ、僕は自分の内面を深く掘ることになった。
自分の不利を技術で補おうとした。
自分の夢の奥にある価値観を考えた。
そして今、同じように進路で悩む若い人たちに、自分の言葉で話せるようになった。
そう考えると、あの悔しさも、全部が無駄ではなかった。
◾️障害特性や制限があっても、好きなことを諦めないでほしい
僕が一番伝えたいのは、ここだ。
障害特性がある。
苦手がある。
制限がある。
身体検査で引っかかる。
周りと同じようにできない。
親や先生から、現実的なことを言われる。
それでも、好きなことを簡単に諦めないでほしい。
もちろん、現実を見ることは大事だ。
生活を作ること。
働く力をつけること。
人間関係を学ぶこと。
社会の中で無理なく続けられる場所を見つけること。
それはとても大事だ。
でも、現実を見ることと、夢を捨てることは同じではない。
夢の形は変えていい。
職業名は変わっていい。
方法も変わっていい。
スピードも人それぞれでいい。
大事なのは、自分の心の奥にある動機を手放さないことだと思う。
なぜ、それが好きなのか。
なぜ、それに憧れるのか。
どんな瞬間に胸が熱くなるのか。
何をしていると、自分らしいと感じるのか。
誰の役に立ちたいのか。
どんな世界に関わりたいのか。
そこまで掘り下げると、道は一つではなくなる。
僕は、色覚異常によって閉ざされた道もあった。
でも、そのおかげで見えた道もあった。
見えない色があったから、見えたものもある。
これは綺麗ごとではない。
悔しさもあった。涙もあった。納得できないこともあった。
でも、それでも人生は続く。
そして人は、形を変えながら、自分の願いを生き直すことができる。
◾️色覚異常は、僕にとって「欠点」だけではなかった
色覚異常は、僕にとって確かに不利だった。
進路で困った。
検査で傷ついた。
夢を諦めた。
悔しい思いもした。
でも、今はそれを、ただの欠点とは思っていない。
それは、自分の見え方を考えるきっかけだった。
人と違うということを考えるきっかけだった。
社会の情報設計を考えるきっかけだった。
技術で困りごとを補うという発想の原点だった。
そして、夢の奥にある自分の価値観を掘り下げるきっかけだった。
僕は、自分の見えない色に苦しんだ。
でも、その分、人の見えない痛みにも少し敏感になれた気がする。
みんなが普通にできることが、自分にはできない。
みんなが見えているものが、自分には見えない。
その孤独を、僕は少し知っている。
だからこそ、今、誰かの困りごとに向き合う仕事をしていることにも意味を感じる。
色覚異常は、ある時、ある時期、僕の人生から何かを奪った。
でも同時に、僕に別の視点もくれた。でも、おかげで今がある。
そう思えるようになるまでの道のりすら味わい深い人生だった。
ほんとうにそう思う。
僕は、見えない色があったからこそ、見えた人生がある。
さあ、今日も愛と感謝を胸に、バイバイ。
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